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約束
約束の時間にはまだ30分もある。美咲は待ち合わせ場所からほど近いショッピングビルに入った。
エスカレーターで5階に行くと、パウダールームに向かう。
出る前に何度も確認した。それでももう一度全身をくまなくチェックする。
髪の毛は乱れていないか。服にシワは寄っていないか。メイクは濃くも薄くもないか。
背の高い彼に合わせて普段より高い7センチのヒール。
会社でわざわざ履き替えてきた新しい靴だ。
まだ履き慣れていないからスタスタと歩くことはできない。
これは失敗だったかもしれない。普段の靴にしておけば、と後悔をしてチラリと時計を見る。
早く着いたつもりだったが、確認に手間取ったようだ。待ち合わせ時間が迫っている。
新しい靴を買う時間は、もうない。
せめてリップだけでもと塗り直すと、美咲は先程通り過ぎた待ち合わせ場所に向かった。
※
「すみません、遅れました!」
「いや、まだ5分前だ」
携帯から顔を上げた安村はニカッと笑う。
今日の安村はネイビーのスーツにブルーのシャツ、そしてぱっと目を引く明るいイエローのネクタイだ。
セミオーダーなのだろう、体の線に沿って仕立てられたスーツは、彼をますます魅力的にさせていた。
美咲はますます自分の格好が気になった。
淡い桜色のブラウスを着てアイボリーのテーパードパンツに紺のジャケットを羽織っただけだ。
(ワンピースにすればよかったかなぁ)
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