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付き合っているんじゃないか、と勘違いしてしまいそうになるくらい、丁重に扱ってもらっている。
だけど。
(これ以上望んじゃだめだ)
安村の好意を感じる時がないわけではない。
だが、彼のは情だ。
美咲の申し出を断り切れずに、仕方なく付き合ってくれているに過ぎない。
それでも、今は安村のそばにいれる。
「好き」の一言を伝えれば崩壊するくらい不安定な関係だ。
だから、美咲はこの気持ちを伝える気はサラサラなかった。
願いはただ一つ。今の関係が少しでも長く続く。それだけだ。
※
「前野さん、あれ彼氏?」
「なんのこと?私、彼氏いないよ」
同期の彩葉に問いかけられた美咲は理由がわからないまま首を傾げた。
営業の彩葉とデザイン課の美咲と上司の鈴木の三人で取引先に訪問した帰り道。
美咲は彩葉と並んで歩きながら、突然問われた。
別件がある、といって鈴木とは途中で別れたから今は二人だ。
とりとめのない話をしていただけなのに。
もうすぐ会社につくというタイミングでなぜこんな質問をするのか。
同期の中では親密な方といえども、課も違うし元々プライベートはあまり踏み込んでこない彩葉。
突然投げられた質問に美咲は疑問に感じるだけだった。
「金曜の夜の10時頃、池袋北口のラブホに男と入っていったでしょう?30過ぎくらいの」
「……」
やっと予約が取れた、安村おすすめのレバーやもつ煮を出す居酒屋に行って、そのままラブホテルに向かったのだ。
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