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「前野さんって同期で集まっても恋人の話しないし、話にも乗ってこないから興味ないのかと思ってたわ」
「んー、恋愛経験ないから話せなかっただけだよ。こんな話したの、初めてだし」
「そっかぁ」
彩葉はにっこり笑う。美咲はその笑顔がどことなく安村に似ていると感じた。
だからなのか。あまりプライベートを話すのが得意ではないのに、彩葉にはペラペラと喋れているのは。
美咲の思いを知っていたかのように、彩葉は言った。
「その、安村さんだっけ?彼のどこが好きなの?教えてよ」
「えっと……」
普段なら決して口にしないのに。
酒を飲みすぎたせいにしよう。美咲は自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
「長くなるけど……聞いてくれる?」
彩葉は満面の笑みで頷いた。
※
とても素敵な声だ。
まだ小学生だった美咲は、それがバリトンと分類されるのだとは知らなかったが、兄が連れてきた友人の「おじゃまします」の声にうっとりした。
興味本位でリビングからピョコと顔を出すのと、彼が廊下を歩いてきたタイミングは同じだった。
「っと、危ないな。あっち行ってろ」
年頃もあって美咲を邪険に扱う兄の後ろを歩いていた安村は頭一つ分大きい。
びっくりして固まった美咲を見つけると、わざわざしゃがんで目線を合わせてくれた。
「前野の妹、かな?はじめまして、安村龍彦です。お邪魔するね」
彼はニカッと笑う。
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