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ガタイは大きいのに笑うとまなじりが下がり、優しそうな目が強調される。
そこできちんと挨拶が出来たらよかったのだが、その時美咲がとった行動は正反対だった。
逃げた、のだ。
「あ、こら!」
兄の怒りを含んだ声が聞こえるが無視する。
見知らぬ男の人だ。
素敵な声だがよく響くし、体も大きい。笑うと優しそうだけど、怖い。
(勝手に知らない人連れて来ないでよ!ってか、もっと遅く帰ってきてよ!)
両親は共に仕事だ。一人で留守番できるようになって兄が帰ってくるまでは好きなことができる貴重な時間なのだ。
この春、高3になり「受験生」になった兄は美咲の立てる音に敏感だ。
宿題の音読をしたり、テレビを見たりゲームをしていると、必ず「うるさい」と注意される。
反抗期、というのもあったのだろうが、この時期の兄は美咲には鬱陶しくてたまらなかった。
ただでさえ年が離れていて、異性同士。そんなに仲良しな兄妹ではない。
むしゃくしゃした気持ちでリビングに戻った美咲に廊下から「静かにしてろよ!」と声を張り上げ、兄は安村を連れて自室のある2階に上がっていった。
「うー、最悪だー」
うめき声をあげ、それでも美咲は兄のいいつけを守るべくテレビのスイッチを消したのだった。
「今日は突然すまなかったな」
安村は帰り際にしゃがんで目線を合わせた美咲に詫びる。
美咲は首を振って安村に答えた。
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