約束

2/4
前へ
/62ページ
次へ
大人の女性に見られたくてパンツスタイルにしたけれど、やっぱり女性らしい格好の方が今日の安村と並ぶのに相応しかったように思える。 せっかく昔憧れていた人と会うのだ。少しくらいドキリとさせたいじゃないか。 そう思っていたのに。 この格好で隣に立つと、同僚にしか見えない。 美咲の心の葛藤を知らずか、安村は口を開いた。 「さて、どんな店がご所望だい?イタリアン?フレンチ?それとも料亭かな?どこに行ってもいいように僕もドレスアップしてきたよ」 彼以外ならわざとらしいセリフも、惚れ惚れするようなバリトンで言われると舞台俳優のように映える。 あの頃と変わらない、いや、年を重ねた分、言葉に説得力が増していた。 更に魅力的になった安村に美咲は噴き出すと同時にホッとする。 兄の友人としてではなく、一人の大人として彼と話してみたかったのだ。 だから昔の台詞を持ち出して少々強引に約束を取り付けた。 安村は嫌な顔は流石にしないだろうが、会うまで不安がなかったというと嘘になる。 少しだけ安心した。ため息に聞こえないように細く息を吐いた美咲は安村に笑顔を向けた。 「安村さんの行きつけのお店に連れて行ってください」 「そんなところでいいのか?僕の行きつけといったら、女将が一人でやっているような小料理屋か立ち飲み屋だぞ?あとはチェーン店の居酒屋か」 暗にもっといい店でもいい、と伝えてくる安村に美咲は首を振る。 『安村は、なんていうか独特なんだよな、センスが』
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

474人が本棚に入れています
本棚に追加