元カノの影

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それでも胸のつっかかりは取れない。歯切れが悪く返事をした美咲に安村は申し訳無さそうにしながら告白した。 「残念ながらいい思い出じゃないんだ。箱根は家族とも友人とも行ったことがあるのに、それきり行けなくなった。正月の箱根駅伝すら未だに見れないしな」 「そんなところに向かって大丈夫なんですか?」 「うん。美咲君となら行ける気がしたんだ。……君がいい気しないのはわかっていたんだが。すまないな」 打診されたときに言っていた「リベンジ」の意味がようやく腑に落ちる。 確かに気分がいい話ではないが、安村と旅行できるのが嬉しいのは事実だ。 それに知らされてないだけで、今まで安村と行った場所のいくつかは前の恋人とも行ったことがあるだろう。 映画館とか、お台場とか。 美咲はすべて初めてだが、安村は違うかもしれないと、いちいち気にしていたらどこにも行けない。 もやもやした気持ちは心の底に沈める。 ふぅ、と呼吸を整えて美咲は安村に笑いかけた。 「じゃあ、いい思い出に上書きしましょうね!」 「あぁ!めいいっぱい楽しもうな」 美咲の笑顔に安心したように、安村の肩から力が抜けた。 そしていつものように、ニカッと笑ったのだ。
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