旅路

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旅路

「ベタだが、まずは大涌谷に行こうか」 安村の言葉に頷いた美咲。 安村は、スッと手を差し出した。 その慣れている様子に、美咲はモヤッとしてしまう。 ――前の彼女とも手を繋いでこの道を歩いたんですか―― 自分のしょうもない嫉妬心を気づかれないように、ことさら明るく振る舞う。 「大丈夫です。手繋がなくても子どもじゃないんでコケないですよー」 手は繋がない。恋人じゃないのだから。 「そうか」 安村は少々残念そうに手を引っ込めて、先を歩く。 ロマンスカーから登山鉄道に乗り換えて強羅駅へ向かうのだ。 美咲は遅れまいと安村の後ろをついて行く。 箱根は小さい頃以来の美咲は、ほとんど覚えていなかった。 急な坂をトコトコと走りながら、時折スイッチバックする姿を初めて見るかのようにワクワクしながら写真に納める。 その姿を安村は微笑みながら見つめると、何か思い立ったように自分のスマホで美咲の姿を撮った。 「よく撮れてる」 美咲にちらりと見せる。そこには窓に張り付いて必死にスマホを操作している美咲の姿が写っていた。 「ちょっ!安村さん!今の消してください!」 安村はハハッと誤魔化し笑いながらスマホをしまう。 「もうっ!」 美咲はワザと怒ったフリをしてそっぽを向いた。 (こんなこと、しないのに)
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