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手を繋ごうとしたりふざけたり。いつもと違う安村の態度。
そして、時折何かを思い出すかのように目を細める。
心がぐちゃぐちゃだ。
ときめいたり、嫉妬したり。感情がジェットコースターのように烈しく上下する。
恋人ではないのだから、と戒めのように唱えるのに、美咲の心の内を気付かないように接してくる。
どんな顔で隣に立っていればいいか、美咲はわからなくなっていた。
※
登山鉄道からロープウェイに乗り換えて大涌谷駅で降りる。
箱根のモデルコースだが、奇しくも真希と来たときと同じデートコースを辿っていることに、安村は少々罪悪感を覚えた。
表情から何か気づいたのか、美咲は笑った。
「箱根に来たら、大体このコースですよね。気にしないでください」
気にならないはずないのに、明るく笑う美咲に安村は少しだけ気持ちが楽になる。
「とはいっても、きっと安村さんは気にするでしょから。……謝るのであれば、あそこの黒たまご買ってください!」
フッと吹き出した安村は、もちろんだよ、と答える。
「ついでにお昼ご飯などいかがですか、お嬢さん。もちろん、僕が出させて頂きます」
芝居がかった安村の口調に、美咲も吹き出した。美咲も、安村の演技に乗っかる。
「なら、お願いしようかしら」
「仰せのとおりに」
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