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胸に手を当てて軽く頭を下げた安村と連れ立って、美咲は近くの食堂に入っていったのだった。
「なんだ」
呟くと安村は肩の力を抜いた。
「どうしたんですか?」
怪訝そうな美咲に首を振ると、芦ノ湖を見つめた。
今、真希にプロポーズした場所と同じところに立っている。
色んな感情が湧いてくると思っていたが、心は凪いでいた。
(もう吹っ切れていたんだな)
穏やかな気持ちで芦ノ湖を見れる日が来るとは、あのときは想像していなかった。
4年もかかった。4年しかかからなかった。
どちらが当てはまるのか、わからないが間違いなく美咲のおかげだ。
彼女と再会して、止まっていた時間が動き出したのだ。
「美咲君、ありがとう」
不思議そうに首を傾げる美咲を、安村は眩しそうに見つめた。
(今度失恋したら、4年で済むどころじゃなさそうだな)
「安村さん、大丈夫ですか?」
急に黙りこくった安村を心配そうに覗き込む美咲に、いつものように笑いかける。
「あぁ。苦しい思い出の場所だったはずなのに、美咲君が隣にいてくれるおかげかな。思った以上に平静だ」
ボッと顔を赤くする美咲を思わず抱きしめたくなる。
理性を総動員して気持ちを押し止めると、安村は改めて美咲に礼を言ったのだった。
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