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「ただの練習相手だろ」と、言われたくない。
一時のことだとしても、今のままなら安村の隣にいることは許される。
かつては叶わなかった。幼すぎて、安村の隣を歩くことすらできなかったのだ。
一度目は、ただ気持ちをぶつけるだけで良かったのに。
二度目の今は、それだけじゃ満足できない。
隣を歩きたい。側にいたい。
キスもしたいし、抱きしめられたいし、……抱かれたい。
同じ温度で恋愛はできないと、以前釘を刺されている。
安村には「友人の妹」としか見られてないのだ。
それなら望みがない恋人ではなく、都合のいい関係でも側にいたい。
聞き分けの良い女を演じて、にっこり笑って。
その一方で恋人になりたいと強く望んでもいるのだ。
自分でもわかっている。拗らせていることは。
だけど恋愛経験ゼロの美咲には、もう何が正解かわからないのだった。
※
爆発したのは、夕食後だった。
安村と別れて土産売場を覗いて部屋に戻った美咲の目に飛び込んできたのは、窓際の椅子に腰掛け、遠い目をして湖を見つめる彼の姿だった。
美咲が戻ってきたのにも気付いていない安村に、我慢していた糸がプツンと切れた。
「……っているんですか?」
「ん、美咲君。おか……」
「誰のこと考えているんですか?前の彼女のことですか?」
「どうしたんだい、美咲君」
戻ってくるなり低い声で突っかかる美咲に安村は驚いたように眉を上げた。
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