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初めて好きになって、バレンタインで渡すチョコクッキーを作って告白して。
あっけなく恋は敗れたけれど、8歳も年下の美咲にも精一杯言葉を尽くして断ってくれた安村。
無碍に断ることもできたのにしなかったのだ。
初恋は叶わなかったけれど、それからも家に来ると気さくに声をかけてくれる安村への恋心。
兄たちが高校を卒業して安村が家に来ることもなくなると、幼い恋から憧れに、そして良い思い出に変わっていった。
このときの安村の対応が完璧過ぎて、恋人に理想が高くなってしまい、今の歳まで恋人ができなくて困っているのは内緒だ。
だから兄の結婚式で安村を見た瞬間、幼い頃の甘酸っぱい恋を思い出し、居ても立ってもいられなかった。
中座した安村を追いかけるように席を立って、大人になったから約束通り飲みに連れてくださいと、無理やり連絡先を交換したのだ。
15年分年を重ねた安村は、年下の美咲に対してやっぱり誠実だった。
「美咲君、こっちだよ」
ヒールのせいでいつもよりゆっくり歩かざるを得ない美咲の歩調に合わせてゆったりと歩きながら、安村は朗らかな笑顔を見せる。
「はい」
その気遣いが、その声が、その笑顔が美咲の心を温める。
15年も前の約束を律儀に守ってくれる彼。
年を重ねても変わらない安村に美咲は安心するのだった。
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