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再会
「あっ」
離れているにも関わらず、美咲は吸い寄せられるように彼を見つめた。
周りの人より頭ひとつ抜けた巨漢をダークスーツに窮屈そうにおさめ、豊かなバリトンを響かせる。
側にいるのは友人なのだろう。屈託なく笑う顔も昔のまま。
顔を見るのは何年かぶりなのに、胸の高鳴りはあの頃と同じ。いや、それ以上だ。
徐々に近づいてきた彼が、受付に立っている美咲に挨拶をする。
「この度はおめでとうございます」
ペコリと一礼しても美咲の目線より高い。それでも昔よりはずっと距離が近くなった。
「ありがとうございます。……お久しぶりです、安村さん」
顔を上げた安村は、美咲をマジマジと見つめると、驚いたように目を見開いた。
「前野……の妹?美咲……だっけ?」
「はい!」
美咲は弾む声を抑えきれなかった。覚えてくれていた。それだけでこんなにも嬉しいなんて。
「驚いたな。あんなに小さかったのに」
安村はご祝儀袋を美咲に渡すと、芳名帳に安村龍彦と名を記す。
枠からはみ出しそうなくらい力強く書かれた字体は、彼を表しているようだ。
クスリと笑った美咲を再び見て、安村は言った。
「笑うと左にだけえくぼが出来るのは昔から変わらないな」
ニカッと笑うと、安村はもう一度祝いの言葉を述べる。
その笑顔を何度思い出したことか。
美咲は見惚れてしまいそうになって、ハッと気づく。
今は兄の結婚式の受付に専念しないと。
安村に席次表を渡す。にっこりと、とびきりの笑顔で。
「ありがとう」
安村は片頬でホロリと笑うと、片手を上げて礼をいうと、先に着いていた友人のところへ向かった。
美咲は彼の姿を目で追いかけたい気持ちを振り切るように左右に首を振ると、次の来賓客に向けて笑顔を向けた。
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