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1話 白亜:今でも忘れない
窓を開けると、晴れた青空が広がっていた。
冬の空は、うすい水色で、雲一つない。
マンションの4階だから、遠くまで見渡せるけど、そのぶん冷たい風が入ってくる。
頬にぶつかる風は冷たいけど、嶺二に買ってもらった暖かいパーカーのおかげで、寒くない。
「白亜、何してるんだ?」
部屋に入ってきた嶺二が、白亜を呼ぶ。
「あっ!」
ふりかえるより先に、背中からぎゅっと抱きしめられた。
嶺二は、白亜より頭一つ分ほど背が高い。
すっぽりと嶺二の腕の中におさまった白亜は、顔をあげて、嶺二を見つめる。
冷たく見えるけど、白亜には、やわらかく微笑んでくれる。
「ママと、お話してました!」
ママは白亜が子どものころに、空の向こうの、天国へ行ってしまった。
だから、ママに届くように、いつも空に話しかける。
「そうか」
嶺二の、キリッとした鋭い瞳が、やわらいだ。
口元に笑みを浮かべて、白亜を見下ろしている。
「ママに、何を話してたんだ?」
優しい声でたずねてくる。
白亜は頬をゆるめて、嶺二の手をぎゅっとつかんだ。
「ママが言ってました。ボクが大きくなったら、ママよりもすきな人に会えるって」
ママと一緒に暮らしていたころ、そんな話をしてくれた。
そのとき、白亜はママと約束したのだ。
「大すきな人を見つけたら、何があっても、そばにいるって」
そう言って、ママと指切りをした。
あのころ、大好きな人は、ママだけだった。
でも、いまは違う。
ママよりも大好きな嶺二に出会って、灰色の世界が、あざやかに色づいた。
「白亜」
嶺二が、白亜の体をくるっと回して、正面から顔をのぞき込んでくる。
カッコよくて、優しくて。
とっても甘い香りがして、とろけるくらいに、大好き。
嶺二の側にいるだけで、嬉しくて、好きの気持ちがあふれてくる。
「レージくん」
大好きな嶺二を見上げると、おでこにちゅっとキスをくれた。
それから、頬にも、唇にも、甘いキスをくれる。
「ふふっ、くすぐったいです」
笑い声がこぼれてしまう。
でも、嶺二のキスは優しくて、甘くて、気持ちいい。
いっぱいキスしてくれた後、真剣な顔で口を開いた。
「俺が、お前を守ってやる」
嶺二の真剣な眼差しに、胸がドキドキした。
もう十分に、守ってくれてるのに。
白亜は腕を伸ばすと、嶺二にぎゅっと抱きついた。
嶺二に出会ってから。
寂しくて、つらい日々が、甘くて幸せな日々に変わった。
「大すき、レージくん」
どれだけ好きと伝えても、足りないくらいだ。
だって白亜は、嶺二と出会った日のことを、今でも忘れない。
この先も、一生忘れないって、誓える。
嶺二と初めて出会ったとき。
嶺二は、優しくて。
とっても甘くて。
白亜は生まれて初めて、とろけてしまうほどの、恋の喜びを知ったのだから。
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