3話 白亜:新しい家

1/1
890人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

3話 白亜:新しい家

「でもね、あなた」 伯母がくぎを刺すように、冷たく言った。 「もしその子がオメガだったら、この家から出て行ってもらうわ」 そう言って、伯父の返事を聞く前に、伯母はリビングを出て行った。 巳影もその後を追いかける。 シンと静まり返ったリビングで、白亜は心細くなった。 目の前のシャツを握ると、伯父がふりかえる。 「白亜……ここが、お前の新しい家だ」 伯父は、困った顔で白亜の頭をなでた。 「ママは?」 「天国へ行ったんだよ。お別れしただろう?」 「……」 うる、と涙があふれてくる。 伯父が慌てて、白亜の肩を握った。 「いいかい、白亜」 「はい……」 「伯母さんと、巳影の言うことを、よく聞いて、いい子にしてるんだ」 「ボク、いい子です」 「ああ。そうだな。とりあえず、お前がベータであることを祈っておくよ」 ポンポンと頭をなでられる。 ベータが何なのか分からないけど、白亜はうなずいた。 「お前の部屋はこっちだ」 伯父に手を引かれて、家の北側にある、小さな部屋に連れてこられる。 たくさん、物が置いてあった。 「ここにある物は、触ったらだめだぞ」 「はいっ」 「奥にベッドがあるだろ。今日からそこで寝るんだ」 「ボクのベッド?」 「そうだ。荷物も運んでやるから」 白亜がうなずくと、伯父はホッとしたような顔になる。 そして、白亜を部屋に残して、去っていった。 白亜はズボンのポケットから、ピンク色のウサギのぬいぐるみを取りだした。 「モモちゃん」 モモは、昨年の誕生日にママからもらった、新しい家族だ。 やわらかくて、フカフカして、愛くるしい瞳で笑っている。 モモを受けとったとき、ママに言われた。 「モモちゃんが、白亜を守ってくれるからね」 それから、家族だから大事にしてねって。 だから、白亜はずっとモモを大切に持ち歩いている。 「モモちゃん、ここが、ボクのへやです」 部屋の中は暗くて、すき間風が入ってきて寒い。 ベッドの上にあった毛布を、肩に掛けると、寒くなくなった。 白亜はモモをぎゅっと胸に抱く。 そうすると、ママが近くにいるようで、安心した。 だけど。 ママがいなくなって、白亜の生活は、一変してしまった。 + + + それから、巳影はことあるごとに、白亜に八つ当たりして、叩いたり、モノを投げつけることもあった。 伯母も白亜には冷たい態度で、邪険にしてくる。 伯父だけが、白亜に優しく接してくれたが、それでも自分の家族をいちばん大事にしていた。 中学を卒業する前には、二次性検査を受けたが、結果は不明。 そこからはさらに、最低限の衣食住だけを与えられ、学校にも行けず、食堂の手伝いをして暮らすことになった。 引き取られてから10年間、ずっとそんな日々が続いた。 二十歳を過ぎても、変わらない。 実家から大学に通う巳影がいなくなれば、少しはマシになるかもしれない。 でも白亜には、未来のことも難しくて、何も考えられなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!