6話 嶺二:孤高のアルファ

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6話 嶺二:孤高のアルファ

「レイさん、ここ禁煙ですよ」 「知るか」 「オーナーに叱られるの、オレらじゃないっすか~」 付き合いの長い後輩ホストが、軽い口調で話しかけてくる。 軽く睨むと、両手を上げて肩をすくめた。 「レイさん、こわいっす」 「黙ってろ」 低い声で唸ると、後輩ホストはササっといなくなった。 若手のホスト達が、嶺二の方をちらちら見ながら、楽しそうに喋っている。 嶺二はそれを黙って聞き過ごした。 「レイさんって、マジこわいっすね」 「バーカ、カッコいいだろうが」 「そうだぞ。あの冷たい目で睨まれたいって客が多いもんなぁ」 「レイさん、アルファだから、それだけで人気ですもんね」 「アルファってだけで、羨ましいっす」 声を潜めているつもりだが、丸聞こえだ。 生まれ持った二次性を、羨んだり、妬む者も多い。 なぜか分からないが、アルファはどうしても、人目を惹く。 ベータの中に居れば、まるで輝いているようにすら見えるという。 アルファはその特性から「生まれながらの王者」と賞賛されることもあった。 たんなる誇張だと思っているが、実際に嶺二を目にした周りの反応は、いつも同じだ。 嶺二を見つめる目には、憧れと羨み、それから、妬みや恐れが混じってくる。 ホストとして働く時に、アルファ性を公表したのは、先輩ホストであるキリヤの提案だった。 「お前は人に媚びるのが嫌いだろ? クールキャラでいくんなら、アルファだって言っといた方が効果的だって」 キリヤの目はたしかで、その助言は的確だった。 新人だった頃は、愛想が無い、目つきが悪いと他のホストや客に詰られてきた。 しかし、アルファ性を公表した途端に「孤高のアルファ」と呼ばれはじめ、何も言われなくなった。 無理に愛想笑いなどしなくても良くなり、客に媚びる必要もない。 そうして、ホストの「レイ」が生まれたのだ。 「レイさんがすげぇのは、アルファだからって、傲慢にならないところだぜ」 後輩ホストが、胸を反らせて自慢する。 「自慢もしねぇし、客にだって媚びたりしねぇもんな。それに、腕っぷしも最強だぜ」 力こぶを作って、楽しそうに語る。 本人の近くで噂話をするのは、どうにかならないのか。 文句を言う内容でもないが、多少の居心地の悪さは感じる。 嶺二は聞こえないふりをして、新聞を流し読みした。
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