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7話 嶺二:オーナーと嶺二
「おーっす、レイ」
「キリヤ」
今は、この店のオーナーであるキリヤがやってきた。
嶺二にひらひらと手を振っている。
明るい金髪に優男の風貌で、嶺二と違って人当たりがいい。
軽いノリと、愛嬌のあるところが人気を博し、今でも当時の客がキリヤの顔を見に店にやってくるくらいだ。
そのキリヤは嶺二より10は年上なので、もう40手前のはずだが、かなり若く見える。
そのうえ、プレイヤーであるホストよりも、高級スーツをスマートに着こなしていて、嶺二ですらカッコいいと思う時があった。
さすが、人気店の元ナンバーワンホストだ。
「レイ、また煙草吸ってんのか。ココ禁煙だって言ってんだろー?」
「いいだろ、別に」
「よくねぇよ」
キリヤがジャケットの内ポケットから、携帯灰皿を取りだした。
煙草の箱と同じくらいの大きさで、革巻きのスリムタイプ。
キリヤは親指で上蓋を弾き、嶺二の前に差し出す。
「煙草嫌いの客も増えてんの。スーツが臭かったらイヤだろ?」
「ちっ」
嶺二は舌打ちして、持っていた煙草を灰皿に入れる。
もみ消さなくても、一瞬で消火できるのがこの灰皿の特徴だ。
キリヤは満足そうに携帯灰皿をポケットにしまう。
「で、何しに来たんだ?」
「お前らの様子を見にきたんだよ」
キリヤはそう言いながら、嶺二の隣に座った。
足を組んで、くつろいだ体勢になり、スマホを取りだす。
「レイ~、新聞より、オレの話聞いてくんねぇ?」
「聞くか。様子見に来たんじゃねぇのか?」
ロッカーのある方を振り向くと、プレイヤーやスタッフが世間話で盛り上がっている。
「あーうん、今日もみんな元気で何より」
キリヤはスマホから顔をあげずに、適当に返事をする。
ヒマなのか。
嶺二はため息を吐いて、新聞の続きを読む。
だが、すぐにキリヤに邪魔された。
「レイ。オレさ、猫飼ってんだよ。知ってるよな?」
急にペットの話が始まった。
目的はこれか。
ペット自慢か、ペットの愚痴だ。
面倒くさい話がきたと思い、嶺二は新聞から目を離さないようにした。
「でさ。ここ最近、店が忙しかっただろ? 帰りが遅くなったせいか、ご機嫌ナナメなんだよな~」
キリヤは嶺二の態度など気にせず、一方的に話しかける。
嶺二は無視して、聞き流した。
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