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8話 嶺二:一人の方がマシ
そんな二人を、他のホストが遠巻きに眺めている。
オーナーの話を無視して、新聞を読み続けるナンバーワンという構図は、他のホストクラブでは見られない光景だろう。
「いつも思うけど……あの二人って、仲いいよな」
「そりゃ、オーナーがレイさんを引き抜いたわけだし」
「前の店でも、ナンバーワンとナンバーツーだったんだろ? ライバルってギスギスしてるもんだけどな」
「レイさんも、やっとこの店でナンバーワンになれたんだよな?」
「おい、レイさんに失礼だろっ」
「でもさぁ」
「オーナーは、伝説のホストだったもんなぁ」
好き勝手に話しているが、嶺二はキリヤより格下だと言われても気にならない。
キリヤはベータだが、ホストとしての才能とセンスは天才的だった。
他人を貶めることなく、実力だけでトップに上り詰め、引退するまで誰にもその座を譲らなかった。
そこには、嶺二には真似できない、地道な努力の積み重ねがある。
キリヤを間近で見てきたからこそ、世間で言われる二次性の優劣は当てにならないと知ったのだ。
それに、キリヤには拾ってもらった恩もある。
親の借金のせいで、高校にも行けず夜の街で下働きをしていた時に「手っ取り早く稼げるから」とホストに誘ってくれた。
当時、すでにナンバー持ちのプレイヤーだったキリヤの下で、ホスト見習いから始め、一人前のホストになるまで、何かと面倒を見てもらった。
その恩があるからこそ、キリヤが店を出す時に、引き抜きの話を受けたのだ。
「なあ、聞いてんのか、レイ」
「……なんだ」
嶺二は新聞から顔をあげて、キリヤを振り向く。
「な、今日、飲みにいかね?」
「行かねぇよ」
嶺二が即答すると、キリヤが唇を尖らせる。
「ちぇー。一回くらいいーじゃんか」
「俺を誘うな」
「レイって、一人で寂しくねぇの?」
キリヤの問いかけに、鼻で笑った。
「俺が? 下らない質問だな」
「いくら孤高のアルファ様でも、一人っきりはつまんねぇだろ?」
「俺は、一人の方がマシだ」
「レイって、彼女は一人もいないんだっけ?」
「いない」
「モテモテのくせに、もったいねー!」
キリヤはそう言うが、女と付き合うと面倒くさいことばかりだ。
客から、恋人になって欲しいと請われることはよくあった。
客との疑似恋愛は、金を産む。
嶺二は、客を含め、知り合った女に請われてデートすることがあった。
だが決して、そういう女とは寝ないし、交際もしない。
その気は無いと、始めから断っている。
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