9話 嶺二:アルファのレイ

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9話 嶺二:アルファのレイ

しかし彼女たちは「それでもいいから」とデートに誘い、諦めずにアタックしてくる。 そこまでして熱心に誘うのは、嶺二とのセックスが目的なのだ。 店では、客と寝るのは禁止されているし、種馬扱いされるのは気分が悪い。 相手が求めているのは「アルファのレイ」であって、嶺二ではない。 それが分かっているから、嶺二は恋人を作らないのだ。 そんな嶺二に、キリヤが軽い口調で言う。 「レイはアルファなんだからさ。運命の番ってやつ、探してみれば?」 「は? ただの都市伝説だろ」 嶺二はアルファだが、番を持つことにも興味がなかった。 客の女はそういう話が好きで、アルファの嶺二に時々「運命の番」の話を振ってくる。 しかし嶺二は「運命の番」などまったく信じてなかった。 恋人や夫婦と同じような「番関係」はまだ分かる。 だが、魂まで深く結びついた相手が「運命の番」なんて、夢見がちな女の妄想だろう。 だが、思いがけないことに、キリヤが真面目な顔で答えた。 「それさ、都市伝説ってわけでもないらしいぞ?」 「どういうことだ?」 「番診断ってあるじゃん? 病院で検査して、番かどうか診てもらえるやつ」 「ああ」 アルファとオメガが、番であるかどうかの診断ができる検査のことだ。 行為中にうなじを噛むと、番が成立すると言われている。 失敗する場合もあるらしいが、成立したかどうかなんて、普通は当事者しか分からない。 その為、科学技術を使って、判断する検査があるのだ。 「あれ、もっと詳しく検査して、番のランクを判定する診断もあるんだってさ」 「ランク?」 「そ。俺も知り合いのアルファから、聞いただけだけど。その検査で最高ランクが出ると『運命の番』らしいよ」 「科学的な根拠があるってことか?」 「だろうね。ま、最高ランクなんて、滅多に出ないだろうけど」 キリヤの話は、初めて聞くことばかりだ。 運命の番か……。 それが実在することに驚きはあるが、嶺二には関係ない。 「そうか」 「え、興味ねーの? アルファなのに!?」 「オメガも女も、必要ない」 「うわ~。お前、まだ30前なのに、枯れてるなぁ」 「うっせぇぞ」 嶺二は軽く睨みつける。 「そういうお前はどうなんだ?」 「オレ? いるよ~、かわい子ちゃん」 そう言って、キリヤが自分のスマホを見せてくる。 「みてくれよ、これ!」
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