第三章・魔王vs魔道

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11 空戦 帝国の空に飛行艇の群れを発見する。 俺はその数に少しだけ不安を感じてしまう。 あれだけの数の人の命を奪う覚悟が俺にあるだろか…… もちろんすべてを薙ぎ払って滅してしまうなどは考えてはいない。だが少なからず命を奪うことになるだろう……そう考えると胸が苦しくなってしまう。 そんな思いで躊躇してしまうが、その群れの最後尾には、ロボットのような巨大な人型が見えた。 俺は赤竜にそこまで移動するように命じ、飛行艇を潜り抜けそれに近づいた。 「まじかよ……」 視界に映ったのは、3mほどのロボットのように機械のパーツを付け、空を飛んでいる帝王ギルダークらしき男だった。 「帝王ギルダークだな」 「これはこれは……魔王!フットワークが軽いじゃないか!早速帝国の民を皆殺しにでも来たのかな?」 「そっちが先に仕掛けてきたことだろ……」 ギルダークの言葉に歯を食いしばりながら冷静に返事を返す。 ギリギリと歯を食いしばりながらも、ギルダークに諦めさせようと次の言葉を思考する。 そんな俺に、飛行艇のいくつかが攻撃を仕掛けてきた。 極太のレーザービームは赤竜が華麗に躱してくれた。範囲の広い雷撃と業火のような青白い炎は鉄の壁を作り防ぐ。砲弾のような何かが放物線を描いて飛んでくるが、そんなものは黒い炎で早々に爆発させた。 「なあ……止まる気はないのか?」 「私は魔王を殺すために生きてきた。止めれるものなら止めてみよ!この命をもって魔王は危険であると知らしめてやる!」 自分勝手な物言いだと改めて感じつつも周りからの攻撃をさばき続ける。 「勝手だな。むしろ危険なのは帝国だと認識されてるんじゃねーか?」 「詭弁だな。魔王が何を言おうとその存在自体が危険なのだ!その証拠に、一人でもこの大群を葬る力を持っている……それがどれほど危険であるか……」 その話の間も、絶えず攻撃が迫ってくるが脅威にはなりえぬ攻撃ばかりであった。 「突然国を追われ、家族を失った。その苦しみ、怒りの感情は手……体験した私にしか分からぬわ!」 ギルダークの恨みのこもった言葉に、やはり話し合いでは解決しないのだと感じてしまう。 「俺は、突然この世界に召喚され……親も知り合いも持ち物さえも……真理以外のすべてを失った。しかもいきなり深い森に飛ばされ、魔王で討伐対象だという……人の何倍も悲しみや苦しみもは分かるはずなんだがな……」 「魔王が何を言う!」 覚悟を決める時がきたと実感する。 そして背後にはすでに他の竜たち、さらには飛行艇が少し離れた場に待機しており、すでに真理たちは飛翔によりすぐそばまでやってきていた。 「いいんだな……お前のせいで沢山の帝国の人間が死ぬことになる……」 「私のせいではない!全て、魔王!お前のせいだ!やってやる!人類のために憎き魔王を私が倒すのだ!」 そう言いながら少し後ろに下がるギルダーク。 先ほどより一掃激しい攻撃が、俺に向かって繰り出されてきた。 赤竜は一気に上空へと飛び上がる。 真理の方は『結界』を作りながらも、エステマたちと一緒に後方へと下がり距離を取ったようだ。 そして他の竜たちが帝国の飛行艇の群れに向かって一斉にブレスをはく。あちこちで爆発が巻き起こっていいて胸が苦しくなる。 「エステマ!茉莉亜(まりあ)たちと一緒に墜落した奴らを頼む!」 エステマは拳を前に突き出しうなづいた。 そして理解してくれたようでそちらに向かった青竜に乗り、エステマと真理、茉莉亜(まりあ)が地上へと降りて行く。 少しでも助かる命なら助けたい……損傷がひどくなければ茉莉亜(まりあ)が『死者蘇生』でなんとかしてくれる。そんな事を考え、重くなり沈んでゆく気持ちを少しでも軽くしようと必死で心を保とうと努力した。 手に雷刀(らいとう)を握り締め、残りの飛行艇に向かって上空から雷撃を飛ばし迎撃を繰り返す。少しでも機体の損傷だけでなんとかなるように…… 俺はなるべく機体の端の方、飛行能力のみを削るように1機ずつ攻撃を加えてゆく。雷刀(らいとう)を振りながらも心の中では、最初の竜たちによる攻撃をしくじったと思ってしまう。 あの爆発で体が飛散してしまったら蘇生ができるだろうか……そう考えると心臓が大きく跳ね上がる。なんで俺がこんな苦しい思いをしなければならないんだ…… 大きく息を吸い込み、大声で叫びながら飛行艇を打ち落としてゆく。叫ばなければ心が折れてしまいそうになったから…… 「真司!」 そんな俺に、下の方からエステマの声が聞こえた。 視線を向けると、大破した飛行艇の残骸の中ですでにエステマたちに救出された者たちに、茉莉亜(まりあ)が回復しているであろう白い光が広範囲で広がっているのが見え、少し心が軽くなったのを感じる。 気付けば周りの飛行艇は全て打ち落とし終えていた。 「ふん!やはり飛行艇では倒せぬか……せめて魔国を焦土に変えてやりたかったが、仕方あるまい……」 そう言いながら帝王は地上へと降りて行く。 その背後には、唯一残った飛行艇が付き従うように下りていった。 ギルダークに誘われるがままに降りたのは浜辺だった。 背後には海。広い浜辺に視線の先には深い森が見える。あまり人が入るような場所では無いようだ。 ギルダークの背後に降りた飛行艇もハッチが開くと、護衛であろう兵士を伴って一人の女性が降りてきた。帝王妃エドワースであった。背後には宰相ドルジアーノの姿もあった。 少し離れた位置に移動し、こちらも見守るようにして立っている。 「さあ、やり合おう。ここに残るであろう爪痕も、魔王の脅威を伝える重要なシンボルになるやもしれぬな」 準備は整ったとばかりに俺を睨みつけるギルダーク。 「お前ひとりで何ができる……」 俺の返事にギルダークが馬鹿にしたように「ふはっ」と声をもらした。 そして左の腰の一部分がパカリと開くと中からいくつかの巨大なパーツが飛び出し、そして両肩には砲台のようなパーツが、腰の両側には飛行機の翼の下にあるようなジェットエンジンのようなものが装着された。 さらに反対側の腰の一部が開き、全身にバシバシと何かが張り付いている。 全てが終わると、先ほどのスマートな見た目とは違い、ゴテゴテとしたストーンゴーレムのような姿へと変貌してしまった。さっきまでの発散しようのない怒りのようなものが一瞬消え、見とれてしまった事に気づく。 ファンタジー世界で変形ロボかよ……そう思いながらもすでに救助と治療を終えたであろう、エステマとリザ、イザベラが近くまでやってきたのを感じた。 真理と茉莉亜(まりあ)はまだ帝国兵たちのそばにいた。 「真理はなんで結界を張ってるんだ?」 「ああ、あれか……」 真理がひとまとめに集められた帝国兵を包み込むように、『結界』を張り覆っているのだ。 「アイツら、回復した順に俺たちに襲い掛かってきたんだ……首にあるあれは見たことが無い模様だが隷属紋かもしれない……」 強制的に玉砕攻撃を仕掛けようとしていたのか…… 俺は変形ロボを見て少し飛ばされてしまったギルダークに対する怒りが、再び込み上げ歯を強く食いしばる。 少し冷静にならねば、と思い『魔眼』を使いギルダークの能力を確認する。 「カラクリ?見に纏う装備の扱いに特化したスキルみたいだな……それに能力値も高い……」 魔眼を通して、主だったスキルと能力値を確認する。『肉体強化』や『拳闘術』なんて言うのも持っているようだ。 「戦闘特化のスキルもあるし、能力値は俺に迫るものもあるな。どれだけあのメカで上乗せしてるのか……さすが魔道兵器大国と言ったところか……」 『魔眼』は本来の能力値だけじゃなく、魔道具などで上乗せされた能力値も一緒に視せてくれる。 「じゃあヤバイんじゃないの?エステマ様とリザと一緒ならなんとかなる感じ?」 俺の言葉にイザベラが不安を投げかけながらエステマに抱き着いている。 「いや、俺一人で大丈夫だ」 「なんでよ!あんたと同じぐらい強いんでしょ?」 そう言いながら俺をバシバシ叩いてくる。地味にイラっとするからやめてほしい。 そこにギルダークから強い光のビームのような攻撃が飛んでくるが、それを氷の壁で上に弾くように防ぐ。反撃に出ようと少し前へ出るとエステマも同じように前へ出るが、俺はそれを手で制した。 「はっきり言って拍子抜けだな……ここは俺にやらせてもらって良いか?」 「仕方ない!俺もムカついてるんだけどな……」 以外とあっさり引いてくれたエステマ。背後ではイザベラが地味にうるさい。 負ける気はしない。 魔王メビオスだって俺の能力値を軽く超えていた。 だが俺は眷属の力で強化され、今はさらにその増幅する力も増えている。負ける道理はないが……切り札か何かがあるかもしれない。 俺はほんの少しだけ警戒しつつもギルダークに近づいてゆく。 ギルダークが右手を上げ、先ほどと同じようにレーザーのような攻撃をしかけてくる。今度はそれを黒い炎で打ち消してゆく。大した攻撃ではないとは言え、さすがにあれが直撃したらケガしてしまう可能性がある。 だが、ただそれだけだ。 俺は『神速』を使うまでもないと判断し、軽く踏み込みギルダークに近づくとその横っ腹を力任せに叩く。 ギルダークは「ぐわっ」という声を上げ軽く突き飛ばされ体勢を崩す。悲鳴は殴られ痛かったのか飛ばされびっくりしたのか…… まだ諦めていないようにこちら睨むギルダークに、ため息をついてさらに近づいてゆく。 「クソ魔王が!」 酷い言われようだ。そう思いながら左手で大きく振りかぶって俺を殴りつけてきたギルダークの手を、片手でパシンと跳ね上げる。 さらに右手で横から殴りつけてくるが、それは左足で蹴り飛ばす。 腕が……もげた…… 少しビビってしまうがあればメカだ。ただの部品だと思いなおす。 「なぜだ!圧倒的な力を!魔王以上の力を手に入れた!はずだったのに……」 「俺は眷属が増えるほどステータスが増えるんだ。知ってるだろ?」 俺はそう言いながら、苦し紛れに放ったギルダークの左足の蹴りを、迎え撃つように蹴り飛ばす。 そして左足は大きく損傷し、バランスを崩したギルダークはどしゃりと音を立てて横に倒れ込んだ。 「眷属で上乗せ?そんな……そんなバカな話があるかー!」 「マジかよ……」 誰でも知っている情報だと思っていたのだがギルダークには届いていなかった様だ。 「諜報からはそのような情報、聞いてない!」 腕をブンブンと振りながら駄々っ子の様にふるまうギルダークを見て、怒りが少しづつ萎えていくを感じる。 「この!卑怯者がー!死ね!死ね!死ねー!」 そして怒りのままに叫んだギルダークは…… 破壊されて生身となっている右手で、胸のあたりのパーツの隙間から丸い何かを取り出し、それをごくりと飲み込んだ……
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