第二章・魔王vs魔王

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22 道筋 飛行艇は何事もなく拠点へと戻ってきた。 飛行艇内では今後について話し合おうとも思ったが、結局ソファに座ると爆睡してしまい、気付けば拠点へ到着していて真理に揺り起こされた。 飛行艇から降りると、皆と一緒に屋敷の庭にテーブルなどをセッティンブする。 すでにクリスチアが準備済みだったのか、下ごしらえ済みの食材が魔法の袋から次々と取り出され、用意したテーブルへと並べられた。 それらをみんなでワイワイ言いながら鉄板の上で焼き始め、勝利の焼肉パーティが開催された。 俺は次々に焼かれる肉と野菜を、暇つぶしで作った自家製どんぶりについだ白米にのせ、こちらもお手製のタレをかけ口の中へと掻き込んだ。 そして隣に並んで肉をつついているミーヤから手渡されたお気に入りのスープを、グビグビとハイペースで飲みお腹を満たしてゆく。 久しぶりに楽しい食事の時間となった。 平和だと感じながらの食事はこの世界に来てから初めてのこと……少し涙が出てしまうほど幸せなひと時であった。 「よーし!じゃあ応接室で今後のことでも話し合うか」 みんなが程よくお腹をみたした後、エステマが立ち上がりこちらへと大きな声で宴の終了が告げられた。 応接室へと集まるように言われたが、ヴァンは自分の屋敷まで帰るということでみんなで見送った。ヴァンが居なければ厳しい戦いではあったので感謝しかない。 ヴァンが少し寂しそうに「たまに顔を見せても良いのだぞ?」と言っていたので、今度みんなで美味しい酒でも持って訪ねるのも良いだろう。 応接室にはエステマはもちろんの事、俺と真理、リザと茉莉亜(まりあ)、イザベラも集まっている。部屋の隅にはクロが丸まって眠っている。俺の肩にはミーヤが頬をスリスリしながら乗っていた。 「さてと。これからなんだが、俺はどうやら王国を纏めなければならないらしい。城を今現在切り盛りしているセイドリってじじいが全部俺に丸投げしようとしたからよ、難しいことは全部やってくれるなら良いぞと引き受けた」 「じゃあ今度からエステマ女王様って呼ばないと駄目なんだな」 エステマにめっちゃ睨まれた。 「俺は所詮担がれてるだけだからな!あのじじいを宰相に据えてあとは何人か優秀な文官がいるらしいから……全部まかせて俺は手を振ってたまに偉そうに演説しろってよ。面倒だが国をまとめるにはそれが最善だって言われちまったし……」 「そうか。まあ大変だが頑張ってくれ」 俺の他人事な言葉にエステマがニンマリと笑ってこちらを見ている。少し嫌な予感がするのだが…… 「エステマ様、私もしっかりとお支え致します」 「私だってずっと支えますからね!」 「私もエステマちゃんに助けてもらった分、しっかり体で返すからねー」 リザとイザベラ、茉莉亜(まりあ)がエステマを支えてゆくのだと声をかけている。それに嬉しそうに笑顔を見せるエステマ。 そして俺の方を再びニヤつきながら見てエステマが小さく咳払いをする。 「もう一つ、決定事項があるんだ!」 「な、なんだよ……」 その言葉に思わず身構えてしまう。 「えー、魔界については今まで同様一つの国として独立して存在してもらうことになった!」 「まあ、そうなんだろうな」 もったいぶりながら言ったエステマの言葉に少し拍子抜けする。 「当然そこには王が必要だ……という訳で、魔王にやってもらおうということに決まったぞ!良かったな魔王!」 「お、い……冗談はその辺にしておけよ?」 言ってよい冗談と悪い冗談があると思うんだ。 「冗談じゃねーぞ?セイドリのじじいにも言われたし、だいたい現状ではお前以外にあの魔素の濃い地帯を治めるのは無理だからな!(かつ)ての聖神国のように神官職だらけにしねーと無理なんだよ」 「いや、でもよ、俺はつい最近まで普通の学生やってたんだぜ?」 「だが今は魔王だろ?」 「ぐっ……」 このままでは強制的に決まってしまうと焦る俺は真理たちに助けを求める。 「真理だって、あそこを治めるなんて嫌だろ?どうせなら強くて長寿なリザとか……それかエステマが両方統治したらいいじゃねーか?」 「私は真司と一緒ならどこでも大丈夫。それに真司が王様なら私はお姫様?あっ、王妃様か……なんだか楽しそうだね!」 「私はメイドですので……」 かなり乗り気な真理と端的に拒否るリザ。 「大体俺だって柄じゃねーけど担がれたんだからお前も諦めろ。二つの大陸をまとめるなんて俺には無理だしな。決定事項なんだよ、ほんと諦めが肝心なんだ」 エステマがため息をつきながらそう告げる。俺に逃げ道は無いのだろうか? 「そ、そりゃー俺も魔窟周りに拠点でも作って、増やした眷属たちで便利屋でも始めようかなって思ってはいたさ!だが国を治めるとか考えてもいなかったよ!」 「まあまあ。何とかなるよきっと。私と一緒に良い国作ろうだよ!」 俺の愚痴に真理が励ますようにそう言うのだが、幕府は立ち上げないので勘弁してほしい。 そしてエステマが「そうだぞ、がんばれよ!」と肩をバシバシやってくるので殺意が沸いたが、どうやら本当に逃げ道は無いのだと諦めた。 深いため息をつきながらクリスチアが用意してくれた紅茶を啜りうなだれる。ふと真理の方を見るとリザに何かを言いたそうにもじもじとしているように見えた。 「真理様、どうしたのですか?」 俺が声をかけようとしたのだが、それより先にリザが真理に声をかける。 「あ、あのね。リザに少し話があるんだよね」 「はい。何でしょう」 俺は言いずらそうにもじもじする真理を見て抱きしめたくなるが、一応は場の空気をよんで自重した。 「リザは、エステマちゃんに感謝してて、今後もそれは変わらないって言うのは分かってるんだ」 「そう、ですね」 俺はそのやり取りでなんとなく察してしまう。 「リザは……今後も私のメイドさん、って言うのはダメ、なのかな?」 その言葉にリザが返事ができないようだった。それには俺たちも口を挟むことでも無いように思え、黙って二人を見守ってしまう。 そしてしばらくの沈黙の後、リザがエステマの傍まで行くと話始めた。 「エステマ様、私はエステマ様への感謝を忘れたことはございません。マリア様を保護して頂いたあの日から、一生尽くして行くことを決意しておりました。その気持ちは今も変わっておりません」 「リザ……それは、嬉しい。でもリザはリザの好きなようにしていいんだぜ?マリアを保護したのだって俺自身のためなんだ。逆にお前は俺の心を救ってくれたんだ。真理と一緒にな」 なんだよこれ……俺は涙をこらえようと上を向く。 エステマとリザ、茉莉亜(まりあ)のことについては話には聞いていた。だからこそリザがエステマに尽くすというのは分かる。だが真理だってリザと一緒に苦労して、この異世界を生き抜いたんだ。 それぞれの望む幸せな形にするのは難しいだろう……そう思いながらも見守り続ける。 「ありがとう、ございます……私は、真理様の強い意志を見てまいりました。そして少しでもお支えしようと尽くしてきました。もちろんそれは、私自身の願いを……願いを叶えるため、でした……」 「リザ……」 リザが話しながら真理の方を向き、少し涙をこぼし言葉を詰まらせる。 「私は、やっと掴んだ真理様の幸せな時間を、今後も見守りながら支え、生きて生きたい……です」 「リザ―!」 堪え切れずリザに抱き着く真理。 「そうだな。魔界はまだまだこれから大変なことがあるだろう。こっちは補佐するやつらも多い。だからリザ、真理を支えてやってくれ。真司の方はどうでもいいけどな」 「おい……まあ、ありがとうな」 俺も一応はつっこみを入れた後、二人を見ながら頭を下げる。 「じゃあ、この話はこれで終わりという事で……次は魔界の新しい名前を考えなきゃな!」 「お、おう」 少し湿っぽい空気にはなったが、今度は名前を決めるための話し合いが始まったようだ。できれば無難な名前にしておきたい。目立たないのが一番だ。 「何か、ないのか?」 案を出せと言われてから数分、誰も口を開かなくなった。いや考えてはいるよ?だが何も思いつかないんだが…… 「ジャパンで、いいんじゃない?」 「ジャパン?」 そして唐突な真理の提案にエステマが聞き返す。 「私たちが住んでたのが日本って国なの。英語だとジャパン。あ、英語って世界共通語的な?」 「そうか。ジャパン……良い響きだな」 「でっしょー!」 「じゃあジャパン魔国、もしくは元の名からだとジャパン正教国ってのもあるが……まあ後ろに付けるのはなんでも良いがどうする?」 エステマと真理の会話で全てが勝手に決まっていきそうな雰囲気となり、俺は慌てて会話に混ざろうと口を開く。 「いやいや、ジャパンとかさすがにどうなんだ?、そうだな、この世界の神様の名前とかじゃダメなのか?」 「そうだな、この世界の神様ならアイテール様、女神ならカリス様だが、それを国の名に入れるのはダメだぞ?他国から不敬だと総攻撃くらうからな」 「そうなのか……」 なるほど。思い付きで言ったのだが、地球で言ったら仏陀とかキリストとかいう名を勝手に付けるようなもんだからな……考えてみたら色々まずそうだ。 でもジャパンはどうなんだろうか?それはそれで良いのだろうか? それと、あの自称神はアイテールというのか。いや違う神という可能性もあるが……今度あったら聞いてみよう。 「じゃあジャパン魔国でいいんじゃない?真司は魔王なんだし」 「そうだな」 「何が『そうだな』だよ!」 真理とエステマで勝手に決定事項にされそうで怖い。 「じゃあ真司は何がいいんだ?早く決めないと寝れないだろ?」 「国の名前だろ……もっと慎重になるべきじゃないのか?早く寝れないって……暫く保留ではだめなのか?」 目をこすりながら言うエステマに呆れながらも反論する。別にすぐに決めなくても良いだろうに…… 「早く決めないと色々やることもあるし大変なんだぞ?ジャパン魔国、無難で良い名前じゃないか!」 テーブルをバシバシと叩くエステマ。 「じゃあ、良いよジャパン魔国で……」 エステマからは他人事だからもう面倒、早く決めて寝たいんだ。という気持ちがひしひしと伝わってきたので、じっくり考えることを諦める。 今後色々な手続きやらを進めていくのはエステマだからな。 ここは素直に従っておこう。 こうして魔界は新たにジャパン魔国と名付けることとなった。 会議はその場でお開きとなり、リザの誘導で俺は何時も使っている部屋へと戻ってきた。 「な、なあ真理……一緒の部屋とか、まだそう言うのは早いんじゃないか?」 「なんで?」 今、俺の部屋には俺と真理、そばにはリザが控えている。 今夜からしばらくはこの部屋に二人で過ごし、部屋の控え室の方にはリザが待機することに決まったと、部屋まで一緒にきた二人に言われ正直かなり戸惑っている。 確かに何度か真理と同衾して抱き合い眠るということもあったが、あれは再開した喜びとか、命を懸けて戦うという特別な状況にあったからという事で…… 「真司様は真理様とご婚約されてますし良いのでは?」 「そ、そうは言ってもな?」 「えっ?真司はもう私を嫌いになったの?」 「そんな訳ないだろ!」 リザは真顔だが真理の方はニマニマと笑みを浮かべているので、反応を見ているのは明らかである。 「まあ、今までも何度かこんなことはあったけど……まあ、良いのか?いや、婚約か……確かに言ったな。よし分かった!寝よう!」 「ふふ。では私は深い眠りに入りますので、どうぞごゆっくり」 「うん。リザ、おやすみ」 少し覚悟を決めた俺に少しだけ表情を崩したリザが礼をして待機部屋へと歩いてゆく。真理の方もご機嫌なようで俺の腕にしがみ付きながらリザを見送っていた。 「じゃ、じゃあ寝るか」 「そ、そうだね。ね、ねようか、な」 急に片言のように戸惑いだした真理を見て少しだけ緊張がほぐれた俺は、布団に潜り込む。 すぐに真理も隣に潜り込んできて少しの間、沈黙が生まれる。どうしよう。何を話したらいい?というか致してしまっても良いのだろうか?婚約したし? そんなアレコレを考えてしまう俺の手に、真理の手が優しくふれる。だがその指先は少し震えているようだった。 「真司、まだちょっとだけ怖くって……それでね、私の覚悟ができるまで、待っててくれる?」 なんだ、真理もやっぱり戸惑ってるじゃないか。俺は少しだけ残念な気持ちを隠して真理の手を握り返す。 「ああ。時間はあるんだ。ゆっくりと二人で生きて行こう」 緊張で声が震えないように絞り出した返事に、真理も強く俺の手を強く握って応えてれた。 「真理、好きだよ」 「私も、真司が大好き」 その瞬間、俺の頬には柔らかな何かが触れたのを感じ、ドキドキしながらもいつの間にか眠りに落ちていった。 二人で、この世界で幸せに生きて行く。そう思いながら…… 「昨日はお楽しみでしたね」 翌朝、洗面所で歯を磨く俺はリザにそう告げられ噴き出してしまうのであった。
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