第三章・魔王vs魔道

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02 宣言 魔王としての俺の存在を全否定したギルダーク。 エステマに強い怒気をこめた顔で睨まれているが、その口元を少し緩め、呆れたようにため息をつく。 「そのままの意味ですよ。分かりませんか?」 「わかんねーよ?分かるようにはっきりいってくれるかな?」 今にも飛び掛かりそうなエステマを見ながら、俺は真理の前にそっと移動して後ろ手に袖を撫で、落ち着かせようと努力していた。すぐに俺の背中にポフリと顔をうずめる感触を感じ、その心地良さに心を落ち着かせていた。 「まあまあ。話を聞いてみようじゃないか」 挑発されぶちぎれ寸前のエステマの肩をなで、宥めながら口をはさむレイモンズ。 「魔王は、滅すべき人類の敵でしょう!」 敵と言われ黙っていられなかった俺は口を開くか迷っていたが、次の瞬間かなり後方に待機していたはずのリザがギルダークの首に手刀を押し当てていた。真顔なのがかなり怖い。 そして帝国側の護衛達が警戒を強め、みな腰の剣に手をあてている。 「あなたも……魔物でしたっけ?」 「だまりなさい!」 自分の状況に恐怖を感じていないのかと不安なってしまうギルバートの物言いに、リザも強い怒りを籠め強い言葉を返している。 「やめろリザ!」 エステマがリザのすぐそばに移動してリザの手を握っている。 「ギルバート帝王殿、さすがに配慮に欠ける言葉では?他国への無礼な振る舞いに護衛が動くのも当然ではないかと思いますよ?」 レイモンズが冷静にギルバートへ伝える言葉に、ギルバートが何ら反応は示さなかった。 「大丈夫だよ?もし間違って死んじゃっても蘇生できるから」 急に入ってきた茉莉亜(まりあ)だが少し黙っててほしい。 メビオスとの戦いの後に開花した『死者蘇生』は死から数分程度なら肉体が消滅していない限り蘇生できるというものだ。1日一回程度の魔力を消費するスキルではあるが使うのは今じゃないハズ…… 「こうやって暴力で全てを解決するしかない人たちと……何を語れば良いのでしょうか?」 「相手に敬意の無い輩に、そもそも話なんてしても無駄だろ!」 ギルダークの皮肉に、エステマがギルダークに反論する。 そしてリザに目で合図を送るエステマに、軽く頭を下げ元の場所まで戻るリザ。真理は戻ってきたリザのそばまで行って慰めていた。どうやら真理の方の怒りも落ち着いたようだ。 「では、帝王は魔国を認めないと……そういう事ですね?」 レイモンズの冷静な声が響きエステマが足を止めた。 「もちろんです」 「では、承認はしないが見守って頂くという事で良いでしょうか?不干渉国ということで……」 レイモンズのその提案に「ふっ」と笑うギルダーク。 「私は……魔国に敵対する覚悟があります!最後まで……戦います!」 「おい!いい加減にしろよ!魔国と敵対するなら王国とも敵対することになるんだぞ!」 エステマがテーブルをたたきながらそう言い放つ。 「もちろん……魔国も。魔国を擁護する国も……全て敵!その覚悟で今日はここに来ています!」 そう言いながら席を立つ帝王と隣に座っていた宰相と帝王妃。そして胸元の魔道具を触ると、真理が使う結界のような光の膜が出現した。 傍にいたエステマは腰の聖剣に手をあてつつも、少し距離を取って身構えていた。 「私は今は無きベルライト正教国の王族です。あの魔王メビオスに滅ぼされた血族なんですよ……引くわけにはいかない……」 「それは存じておりますが……真司様は魔王と言ってもまた別人なんですよ?分かっているでしょう?」 レイモンズが諭すようにギルバートに言葉をかける。 「魔王は滅すべき敵……もう我が血縁たる王族はほとんどが殺されました。私の父母、そして祖父もです……私と一緒に逃げのびた祖母は、昨年病気で亡くなりました……祖母は魔王が封印され、誰よりも喜んでいたのに……」 少し悲しい表情をして手のひらを見るギルダーク。 「なのにまた新たな魔王が現れ、我が祖国を乗っ取り、さらには国と認めろ?ふざけるのも大概にしてほしいものです!」 一際大きく声を上げるギルバートの気持ちは理解することができる……そう思ってしまった。 「だが、魔王を倒せばまた新たな魔王が生まれる……そういう風になってるんだ。分かるだろ?」 「生まれたのならまた倒せば良い!そのための準備は行ってきた!」 もう話し合いでは解決できそうにないだろう。誰もがそう思っていた。 「神王も……そちらに付くと言うなら容赦はしませんよ?」 「わ、私は……」 突然矢面に立たされた神王セイリウはオロオロするばかりであった。 「それではこの辺で……次に合う時は……全面戦争です!」 帝王ギルバートはそう言うと腰の袋から大きな球体の何かを取り出し床に打ち付けた。 俺は咄嗟に真理を庇うように前に立ち身構える。 球体を打ち付けられった床を中心に時空がゆがみ、良く分からない魔方陣のようなものが浮かび上がると、そのまま帝王自身や護衛達などを包み込むように光が広がり、次の瞬間にはそこに誰もいなくなっていた。 「転移の魔道具?」 「そんなものもあるのですか?」 「いや、聞いたことは無いが……魔道具開発が進んでる国だからな……」 エステマとレイモンズの言葉にまだ知らぬ魔道兵器の存在を感じ身震いした。 全面戦争……ギルバートの言葉からは強い恨みの念を感じてしまう。 こうして帝国と敵対することになった俺たち。 後で確認するとどうやら転移先は飛行艇のようで、それに合わせて待機スペースにいた帝国の護衛の兵たちも速やかに飛行艇へと移動し、帝国の方へと飛び立って行ったようだ。 「も!申し上げにくいのですが!我がデウルズ神国については中立という立場でお願いしたい!」 セイリウ神王に土下座する勢いで涙を流し何度も懇願され、エステマや俺はそれを受け入れた。 小さな島国であるデウルズ神国には大きすぎる問題だろう。スサク姫殿下が本当に土下座しそうになって焦ったが、それは真理が慌てて止めに入ってくれたのでホッと胸を撫でおろした。 いずれくる戦争……俺は嫌な思いを感じながらも大講堂を後にした。 「なんで次から次へと問題が出てくんだよー!」 大講堂ではエステマの苦悩の叫びが聞こえてきたが、たまには聞こえないふりも必要だと足を止めることは無かった。 「ねえ、もう少し残って一緒に対策考えなくていいの?」 「大丈夫だろ?リザとか茉莉亜(まりあ)とか……周りに頼れる人がいっぱいだからな。対策については多分夜にでも話し合うだろうし……さすがに少し疲れたからな。少しでいいからダラダラしていたい」 俺の言葉に少し微笑みながら腕にしがみ付き、柔らかいものを押し当ててくる真理と一緒に城内へと歩いてゆく。 結局その日は何をするでもなく、片付けなんかを終えたであろうエステマたちと夕食を楽しみ、風呂で汗を流してそのまま就寝することになった。エステマは今は何も考えたくない様子に見えた。 ならば対策は明日から、と俺も今後の事については何も言わずに城内に用意された部屋に戻り布団に潜り込む。 「私は、当たり前だけど何があろうと真司の元を離れないし、離さないからね」 「ありがとう……俺も、真理を悲しませないように頑張るよ」 互いが無くてはならない存在ということを再確認し、真理を抱き寄せ目を閉じる。人肌の暖かさに心を癒されながら、深い眠りへと落ちていった。 ◆◇◆◇◆ 翌朝、いつもの様にリザに起こされ城の食堂で朝食をとる。 「なあ、今日は今後のことを相談するが良いか?」 「なんだよその歯切れの悪さ。色々考えなきゃいけないんだろ?俺のことでもあるし一緒に考えようぜ」 疲れた様子のエステマに対して言葉をかけるがかなり元気がない。 「あんな意見が出てくるとは思ってなかったよ。その……すまんな」 言いずらそうに目線を下げながら言うエステマ。意外なことに結構繊細なんだよな。 「エステマのせいじゃないだろ?大体原因は俺が魔王だからだ。俺のことを好きだからって気にすんなよほんとマジで。逆に俺が凹むわ!」 「なっ!変なこと言ってんじゃねーよ!」 少し顔を赤らめながら食事を掻きこむエステマに、俺も真理たちも笑って見守っていた。 「さて、仕方ねえから今後の方針を話し合うか」 食堂を終えた俺たちは城にある軍事対策室というところに集まり今後の事を話し合った。 「まずは、帝国の出方がどうかなんだが……昨日の今日ではあるが今のところは大人しく国へ戻っていて、特に大きな動きはしていないらしい」 そう言って話し始めたエステマ。 すでに影と呼ばれる諜報部隊が存在していてそこから様々な情報が入ってくるらしい。スライス帝国の面々は、飛行艇で大人しく本国へ戻り、その後はいつも通りの政務を行っているとのこと。表向きは、と付け加えられていたが…… 結局、要観察ということで動きがあるまでは、各自が国の整備に力を注ぐしか無いという結論になった。 王国側は組織がまだバタバタしているようで、エステマの国王就任を良しとしていない貴族たちもいるようで、それらをあぶり出したり協力するよう説き伏せたり、それでもダメなら排除する必要もあるとのこと。 そして俺たちは当然のことながら魔国をちゃんとした国にしなくてはいけない。 その為には王国側の協力による交通網の整備などやることは山済みである。もちろん魔人の中には職人気質の者が多数いるので、技術を継承して魔国全土を整備していかなくてはいけない。 当面は国を整備することに注力しつつ、俺を含む主要メンバーのレベル上げを中心に進めていく方策がとられた。魔界内の各魔窟には魔人を多数配置し、魔窟近くでの戦闘訓練を連日行う予定だ。 それに伴い周りに街を広げて行ったり、だが周りには広いスペースを空けなきゃいけないし……などと頭を悩ませることも多々あったが、それらは魔人たちと相談をしながら調整をする予定となった。 逐次何かあれば通信具で応相談、ということで話が終わった。 あまりゆっくりはしていられないと俺と真理、リザは魔国に戻ることになり、クリスチアに飛行艇で送ってもらい魔都の城へと戻ってきた。もちろん中にはまだ入らない。周りに設置してある仮の拠点で暫く暮らすことになる。 早急に城を改築しないと気が休まらないなと感じつつ、今日も真理と抱き合いながら眠りについた。
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