第三章・魔王vs魔道

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04 逢瀬 『おかげで反対派の貴族たちは何とかなったぞ』 「そうか、それは良かった」 あれから数日、エステマと反対派貴族の話し合いは無事まとまったと連絡が来ていた。地元の商会から激しい嘆願があったようだ。友好関係を築かないのなら拠点を変えると言われた貴族もいるらしい。 これで王国内のすべての貴族が上辺だけであろうが魔国を認め、交流を図ろうと言う形に落ち着いたので早速完成したゴンドラを付けた竜便を朝昼晩と1日3往復、王都と魔都をつなげることを決め、各商会に連絡をした。 今後はワイバーンのような小型の竜種が増えれば、馬車程度の荷物を運ぶ飛竜便なども運用してみたい。 ここ数日で完成した新しいゴンドラは小型のマイクロバス程度の大きさで、30人程度はゆったりと乗せられるようだ。 スピードが上がると風魔法で全体を覆うファンタジー物で良くある仕組みを提案してみた俺だったが、それは「飛行艇も同じ仕組みなので」と言われ「まあそうだよな」と思いつつ、得意気に提案した自分に少し恥ずかしくなってしまった。 ゴンドラの完成の知らせを受け、さっそく竜便で乗り降りを指示したりする竜便ガイドを募集しようとエステマに連絡を取った。やはり人族の方が良いだろうと王国で募集してもらうと、すぐに応募が殺到して3名程を雇い運用を開始した。 竜便の予約の方も殺到したため、いざ運用を始めると宿泊施設の不足が露呈し、急ピッチでプレハブのような作りの簡易部屋を作成して無料提供する羽目となった。 「早急に宿を作らないとやばいな……」 「そうだね。すごい人気」 真理とそんなことを話していると、あのナブール商会のサラディオが俺に会いに来たと連絡が入った。 こちらも急ピッチで改修している城内にある応接室で待ってもらうと、どうせなら、とニガルズと建築関係の取りまとめ役であるリンドライドと一緒に応接室に向かった。 「5日ぶりですね魔王殿!」 「ええ。サラディオ殿も早速来ていただけて恐縮です」 俺は部屋に入って早々、サラディオとがっちりと握手をしてソファーに腰掛けた。 ここ数日、今までの雑な話し方ではいけないだろうと、大人っぽい話し方を一人練習していたのだが、いざやってみると少し恥ずかしくなってしまうが、一応俺も王様になったのだから仕方ないと諸々の思いは飲み込んだ。 午後からでも恥を忍んでリザあたりにちゃんと教わろうと思う。 「実は、土地を、この魔国の土地を買いたいのですが、どこを窓口にしたら良いのかと思いまして相談に参った次第です」 「ああ、そうですよね。申し訳ないのですがそういった部分もまだ不慣れでして……どうせなら百戦錬磨のサラディオ殿にお知恵も借りれたらと思ってます」 「本当に!本当に私なんぞにそのような機会を与えて頂けるのですか!」 「はい。まあできればで良いのですが……」 「ぜひ!ぜひやらせていただきます!」 思い付きで言ってしまった一言だったが、サラディオの食いつきが思いのほか凄くて少し怖い。 「では、後の話は俺の代理として魔人たちをまとめているニガルズ、そして建設関係はリンドライドが取り仕切ってますので、相談を……まとまったら私が内容確認した後、問題なければそれに沿ってという事で……」 「はい!承知しました!」 嬉しそうに笑顔を見せるサラディオを見ながら、ニガルズに「提案をしっかり確認して資料にまとめてくれ」と命じて退席した。とんでもないストレスを感じた気がする。 「これが社会人の苦悩というやつか……」 たかが数分の話し合いでこうなのだから俺はどうやらあのまま地球で暮らしていても働けそうにないなと思ってしまう。もちろんいきなり王として切り盛りしなくてはいけないのだから当然と分かってはいるのだが…… まあニガルズ達に丸投げでいいだろう。あとはまとまった資料をチェックして……いや、おかしなところがないかリザにチェックしてもらおう。そして修正案をサラディオに送って……早くも気疲れでもう寝たいと思った。 それから数日、リザが「私はメイドなのですが……」と少し冷たい反応ではあったが、ちゃんと最後までチェックしてくれたのでありがたいと感謝した。 メイドなら王国からも応募が殺到しており、人数も増えているのだからリザは宰相か何かにでもなってくれたらいいのだが、あくまで真理付きのメイドとしての立場は譲らないようであった。 真理の方もリザと相変わらず仲良くやっているので、なんなら俺とより何倍も長い時間を一緒に過ごしている。なんならそこにいつの間にかミーヤも加わっており、楽しい異世界ライフを過ごしている感じがする。 それに少しだけ嫉妬してしまうので、早いとこ結婚式をあげ二人でイチャつきたいと画策していた。その為には乗り越えなきゃいけない問題が多いのだが…… その後、何度かサラディオとのやり取りの後、土地の売買についてはオークション形式でまとまった土地を売りに出し、区画整備については折角まっさらに近い状態なのだからと王都から専門家を雇って国全体で考えるという提案を採用した。 提案のお礼ということで、魔都に設置予定の冒険者ギルド前の一角をサラディオに無償譲渡することを伝えると、興奮した様子で『一生着いてゆきます魔王様!」という少し気持ちの悪い返事が返ってきた。 背筋が寒くなった。 そしてエステマから王国でも指折りの建築家、いわゆるドワーフ族を数名紹介してもらい、魔国の区画整備案を吟味したのち土地の売買も少しづつ進めていく。1ヶ月もしない内に王都と比べても遜色ない程度の街並みが完成した。 これには新たに数名の建築系スキル持ちが生まれてくれたのも大きい。 それらと協力して建物をバンバン作っていったのであっという間に整備された街並みが完成してゆく。さらに魔力の高い即戦力の魔人たちには、土魔法で道路整備を命じておいた。 高い魔力でドンドン街道が整備され、驚くべき速度で魔国内の予定していた全ての街道整備が終了してしまった。魔法は本当に便利なものである。 こうして、街が整備し終われば、王国からの旅行者ばかりでなく定住を願う人たちも多数現れた。それらもオークションで高額な土地を勝ち取った各商会が率先して受け入れ、住み込みで店を任せたりしていた。 もちろん各街の警備の方も眷属魔人たちにより組織されていたので、ほぼトラブルなく円滑に回っているようだ。 魔人たちに抵抗するならS級ぐらいの冒険者であれば可能だろうが、S級まで成り上がった冒険者が今更生死をかけて魔人と対立するなんてバカな考えには成らないのだろう。 そして眷属魔人たちは文句も言わず国の発展の為に尽くしてくれるので、今やこの国の財政はとんでもなく潤っている。食料の備蓄もかなりのもので、眷属魔人達も数年は食うに困ることもないだろう。 城内にある俺の執務室にある1m四方の魔法の箱にはとんでもない量の米や野菜、肉類が詰まっている。もちろんこの箱だけではなく、各所に分散して保管してあるので安心である。 また、冒険者ギルドには回復持ちの魔人たちによる治療院を隣接しており、格安で治療ができるため狙い通りではあるが人族と魔人族との交流も盛んに行われているようだ。 冒険者たちについても魔窟内であれば仲間割れや殺人、強盗行為は別として比較的自由に狩りをさせている。 魔人種を含め魔窟内での狩りはもちろん問題ないのだが、唯一のルールとして魔窟内で竜種を見つけたら逃げる一択にしてギルドへ報告に戻るように規約を作っていた。 もちろん一番早く報告をくれた冒険者にはそれ相応の報酬を提供した。 貴重な竜種は魔国の交通網を広げるための大切な眷属になりえる。それを滅すののであれば容赦はしない。いずれそれ相応の数が集まり繁殖を含め基準を満たせば、魔窟内であれば竜種の狩りも解禁するかもしれないが…… 眷属魔人についてもたまに魔窟内に入ることもあるので、魔窟内に入る際には目立つように腕に魔国の国印をあしらった腕章を付けているので、誤って冒険者と衝突することは無いようにしている。 ほとんどが竜種を外に導くために入る程度なので、それほど鉢合わせることも無いようだ。 ここ一ヵ月は本当に忙しかったが、町が急速に発展していく様をまるでゲームのように見ていられたので、それほど苦には感じなかった。 「そろそろ飽きても来たので誰かに丸投げしたい……」 そんなことを考えながらも、相変わらず忙しい毎日を過ごしていた。 ◆◇◆◇◆ ガヤガヤと五月蠅い店内。俺と真理は認識阻害の付与されたローブを深くかぶって魔都のギルド近くの酒場へと来ていた。 適度に食事を頼むと、周りの話に耳を傾けている。 忙しい日々の休息タイムとして、真理と一緒にお忍びで酒場までやってきてひと時を過ごしていた。 もちろんそれは冒険者たちの生の声を聞くためである。 各所や魔人たち、影鼠(かげねずみ)などからも大量の情報が入ってくるのだが、俺に言いずらい事だってあるだろう。もしかしたらある程度の忖度で情報がねじ曲がって上がってくることも考えてのことである。 ……という建前で、真理と二人で街中デートを楽しんでいる。 中々ゆっくりとすることもできず、かといって城の中ではリザや他のメイドも常に周りにいるため、中々イチャつくこともできないでいるのでこうして連れ出してみた。もちろん目先の仕事の方は終わらせてある。昨日の俺は頑張った。 「これ美味しいね!」 「うまそうだな。俺にもくれよ」 真理がベリーなどがが載せられているパイのようなデザートを口にしながら笑顔を見せているので、思わず俺も我儘を言ってみると真理が一つまみして俺の口へと「あーん」という声と共に放り込んでくれた。 実に美味しい。 「こっちもうまいぞ!」 「じゃああーんして」 俺も食べているタルトケーキをひと切れつまんで真理の口へと差し出した。 「うーん!美味しい!」 真理の笑顔に俺も頬が緩み切ってしまう。久しぶりの幸せな時間を感じている。 そして周りからの情報収集に頭を切り替え耳を傾けると、コソコソと何かを言っている声を拾った。急に静かになってしまったが俺の強化された聴力であれば頑張れば聞き取れるだろう。 「魔王様だ!」 「じゃああっちは真理様?」 「仲睦まじいな」 「結婚はまだされてないのよね?」 俺は顔に熱が集まるのを感じ、思わず席を立ってしまう。 「真司、どうしたの?」 「いや、その……」 俺は挙動不審になりながら周りを見渡すと、みんな俺の視線をサッと避けるように他の方へと目線を送っている。いやいや……あからさますぎるだろう…… 「真理、そろそろ出ようか」 そう言いながら近くのそっぽを向いて口笛を吹いているわざとらしい店員に、会計を頼みながらテーブル上の食事を魔法の袋へとしまうと、逃げるようにその飲み屋を後にした。 「どうしたの真司」 「いや、お忍びのつもりだが、どうやら周りには気づかれてたようでな……恥ずかしくなったんだよな」 「ふふ。いいじゃないそれぐらい」 「そうは言っても気付かれないと思ってたからさ」 まだ顔の熱が冷めない俺の腕に絡みつき、笑顔を見せる真理を見て早く結婚して大手をふってイチャ付きたいと思う俺であった。
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