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12 融合
「何を……」
突然のギルダークの行動に戸惑ってしまう。まさか絶望で服毒とかそんなことも無いだろうし、禁断のパワーアップ?そんなことを想像して少しだけ身構える。
「ゴ、ロ、ズ……」
ギルダークの人間を捨てたような苦悶に満ちた顔を見ながら、殺すしかないのかもしれないと握る手に力が入る。散々覚悟を決めたはずなのに、やっぱり躊躇してしまう。
いっそこのまま勝手に死んでくれないだろうか……そう思ってしまう。
そんなことを思っていると、俺は足元をぐっと捕まれるような感覚に慌てて足を引く。
そこには失ったはずのギルダークの破損している左足から伸びた、木の根のようなものがウネウネと動いていた。
その動きに嫌悪感を感じて距離を取る。
エステマとリザも同じように距離をとって真理が結界を張っている場所まで下がっていたのを確認した。
良く見れば生身となっていた右手もうねるよう伸び、破壊され飛んでいった右手についていたパーツに巻き付くようにして吸収でもするように引き寄せられていた。
ギルダークの全身から同じように小さな木の根のようなものが、あちらこちらから出てきてパーツを巻き込んでゆく。
俺はその状況に攻撃を仕掛けて良いのか迷ってしまう。
チラリとエステマの方を向くと、エステマもまた嫌そうな顔でギルダークの方を見ていたので、やはり異様な光景なのだろうと思ってしまう。
てっきり異世界だしあんな感じの魔物もちょいちょいいるのかな?なんて思ってしまっていたが違うようだ。
だが結局どうしたら良いか分からないのは変わらない。
そうこうしている間に、背中であろうあたりから伸びた無数の木の根のようなものが、周りにあった飛行艇の残骸を取り込み始めた。さらには帝王妃エドワースたちが載っていた飛行艇まで取り込んでゆく。
かなり離れた場所にある俺たちの飛行艇にもその根は伸びてくるが、それはエステマが聖剣で叩き切って防いでくれていた。あれは魔石の塊みたいなものだから、取り込まれでもしたら嫌な予感しかしない。
目の前のギルダークだった存在は、すでに3倍近い体躯へと変貌を遂げている。もはや人ではない何かになっているのだろう。
そう感じてしまうのは俺の願望も入っているかもしれない。
人じゃないなら倒しても少しは罪悪感もないかな……
俺はそんなことは無いとすぐに理解してしまう。元々人間だった事実はかわらない。だからアレに攻撃を仕掛けることに未だに体が動いてくれない……人だった時よりさらに哀れに見えてしまい手が震えてしまう。
そして俺は『魔眼』でギルダークだったものを観察する。
名称が帝王ギルダーク・ベルライト(完全体)となっている。どういう原理なのだろうか。自称神が適当に付けた名だったり……そんな妄想をしつつも、自分の4、5倍となってしまった能力値を眺めている。
「そうまでして恨みを晴らしたかったのか……」
そう思いつつも準備が整ったのか次々にこちらに伸びてくる攻撃を、ただひたすらに黒い炎で焼き払っていた。
ギルダークだった者の攻撃は鋭く早い。
それが何十本もこちらに向かってくるのだが、やはりそれでも足りていない。俺の眷属からの上乗せ分はそんなものじゃないんだ。迫りくる攻撃を全て焼き払い続けながらある種の虚しさを感じていた。
そして遂にはギルダークだったものは動きを止めた。
その体が保っていられなかったのだろう。
ひび割れを起こしたようにその体からポロポロとパーツなどが落ちていく。しばらくするとその全てが地面へと落ち、その残骸の山に埋もれながら天を向き倒れ込んだギルダークを見てホッとしてしまう。
最後まで自分の手で直接攻撃を加えるほどの勇気が出なかったが、ここからなんとか上手く収める方向にもっていきたい。
そう考えていると、やはりギルダークが俺の情報を知らないことが疑問に残る。
「しかし……ギルダークはなんで俺の能力の情報を知らなかったんだ?王国民以外にも結構浸透してたと思ったんだが……」
俺は隣まで来たエステマに尋ねながら倒れているギルダークを見る。
「あーすまん。それは俺のせいかもしれん」
「どう言う事だ?」
エステマを見ると気まずそうにしているので確認する。
「うちの影たちが帝国の諜報員を見つけ次第片っ端から捕縛してるんだよ。今残ってるのは魔都襲撃後の奴等ぐらいでその動きも監視している」
その言葉を聞いて、俺はがっくりとうなだれた。
今や王国民のほぼ全ては俺の眷属が増えるほどに強くなり、そして強固な同盟関係を結べば世界が平和になるのだと理解していると認識しているはずだ。そして少し調べればそのことも他国は十分知りえるものだと思っていた。
まさかそんな情報すら得ていなかったとしたら、確かに俺のステータスに迫る勢いで、さらにはもっと強くなれる方法があるなら勝ちを確信してしまうかもしれない……
「殺せ」
不意にギルダークが倒れている方から声が聞こえる。
俺はその声につられ近づくと、なんで生きているか心配になるほど全身ボロボロの状態のギルダークがこちらを恨めしそうに見上げていた。
「まあ、そう言うなよ……」
そう言いながら、俺は茉莉亜を呼ぶと、ギルダークを完全回復させる。
「なぜだ、殺せよ。魔王だろ……俺は魔王に挑み敗れ、そして無残に殺されるのだ。そして人類が気付くのだ……魔王は、危険な存在だと……」
ギルダークの言い分を聞きながら深いため息をつく。
誰かこの場をうまくまとめてほしい。
「なぜ殺さぬ?情けでもかけているのか?それは私に対する侮辱だ……」
上半身を起こしこちらにジッと見ているギルダークに、俺は指で合図を送る。
「何が……何を?エディ?」
そうか。帝王妃はエディと呼ばれているのか。結構愛し愛されなのかもしれないな。そんなことを考えながらも、俺が指さした場所でリザに土下座をしたり必死ですがるようにしている帝王妃エドワースを見る。
ギルダークは戸惑うように伸ばした手を震わせながらそれを見ていた。
暫くすると帝王妃と宰相ドルジアーノ、護衛の兵士二人がリザと一緒に歩いてくる。
そしてエドワースとドルジアーノが二人そろって地面に座り頭を下げる。護衛の兵も慌ててそれに追随した。
「どうか、我が夫を、夫の命だけはお助けください……できることならなんでも致します……」
その言葉に俺は判断に迷う。
咄嗟にエステマの方を見ると、やはりエステマの方も困惑しているようだ。そして真理が結界を解いてこちらへと歩いて来ていた。隷属されていたはずの兵士たちは大人しく座っているようだ。
これも訳がわからない。ギルダークが死にかけたことで隷属が解けたのだろうか?
「そもそも、あなたはギルダークに両親どころか国を奪われたと聞いていますが……」
「それは……」
俺の言葉に顔を赤らめ両手で頬を抑えて体をくねり出す。
一瞬イザベラみたいだなと思ってしまう。
「私は、匿ってもらっている存在の彼が、恩のあるはずの私の両親を殺してまで国を手に入れようとしたその……野心のある瞳に一目ぼれしちゃったのです……」
もはや茹でダコのように真っ赤になったエドワースを見ながら、益々混乱する頭を整理しようと頑張ってみた。だが頭は追いついてこない。
散々助けたのに親は殺され、そして自分も体を奪われた。だがそれが好きなんだと……俺の中の物差しでは測れないものを感じて、そこで考えるのをやめた。
「だが、無罪放免という訳にはいかないんだよな」
そう言いながら俺はエステマを見る。
「うーん。そうなんだけどな。結局こちら側は一切死人は出なかったしな……どこか落としどころをつければみんなが納得できそうで……」
エステマも首をひねりながら何かを考えているようだ。
「では、私がギルを管理するということで……」
そう言いながらエドワースはギルダークに近づきその肩に触れると、首に黒い首輪のような紋様が浮かび上がった。
慌ててエドワースを視ると、スキルに『隷属』があるのを見つけた。
どうやら兵士たちを隷属させたのはエドワースの方だったようだ。
「これでどうでしょうか?私は、野心に燃えるギルが良いと思っていましたが……このように枯れた感じもまたいいなと思ってしまいまして……」
またも顔を赤くしてくねり出すエドワースを見て、もう色々どうでも良くなってきた。
「それでもダメなら私を真司様の自由にしてくれて構いません!そんなめちゃくちゃにされた私を思いながら苦悩にあえぐギルも見てみたいですし!」
「な、なにを言ってるんだ!」
突然の変態発言に戸惑う。
そして気付けば混乱している俺の腕をぎゅっと胸に寄せてしがみ付く真理がいた。
「真司は私のもだから!」
俺は真理に「大丈夫だ」と頭を撫でると「むふふ」と顔をゆるませ腕に頬を摺り寄せてきた。
結局俺はエステマに丸投げをして、魔道具の技術提供という賠償を王国、魔国双方に差し出し、これで手打ちにという事になった。
今後は優秀な技術者である帝国の魔導士を魔国に招き入れ、同時に王国の魔導士にも集まってもらい、一緒に技術の提供を受けつつ意見交換のような場を定期的に設けることになる。
これによりいわゆる西大陸は平定という形に。
そして忘れてはいけないイベントを控え、また俺は奔走することになるのだ……
もちろん中断していた結婚式の事だ。
会場は破壊され、花嫁衣装などが戦闘により汚れてしまっていた。衣装の方は一応浄化の魔道具でキレイさっぱりとなるのだが、何やら縁起が悪いと俺が納得できず新しく用意することになった。
もちろん蚕糸については簡単に手に入るようになっている。
だが仕切り直しをするならと、俺は新たな装飾品を見つけるために奔走する。
スライス帝国の外れにある炭鉱の奥深くに有るとされている魔鉱石と呼ばれる魔石とは似て非なる物、そしてそれの最上級の蒼色魔鉱石を見つけるため、全力で岩を砕いて掘り進んでいた。
「はー、黒いのとか赤いのは出てくるが、本当に青く光る石はあるのか?」
「ニャー(はい魔王様!他のが出ているので、深く掘ればきっと出てくるはずですよ!真理様のためにも頑張りましょう!)」
最近は本当に真理にべったりになったミーヤが、俺の背後から応援らしき鳴き声を発しているのでなんとか体を動かし掘り進めて行く。
結局それは1週間ほど続き、やっとピンポン玉程度の大きさの原石を発見して戻ってきたのだ。
これでやっと結婚式が催せる……そう思って久しぶりの自室の布団に潜り込み、真理の柔らかな肌の感触に心を休ませ、眠りについた。
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