あなたの知らない、新しい私に

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あの日の私達は気持ち悪かった。冷静になった今ならわかる。 あのとき、伊沢くんに身を委ねた私は気持ち悪かった。どうしてあの自分を肯定できたんだろう。大事なことから目を逸らして初めて得た快感に流されて。付き合ってはいたけど、でも惚れてない相手に身体を隅々まで触らせるなんて。今改めて考えたら、あのときの自分はやっぱり気持ち悪い。 伊沢くんの性欲100%の顔も、耳元で囁かれた卑猥な台詞も、冷静な今では吐き気がする。あれが平気だったなんて。欲というものは恐ろしい。 後悔してる?はい、後悔してます。やっぱり、は好きな人に、惚れた相手に捧げたかった。最後までしなかったのはせめてもの救いだ。邪魔してくれた伊沢くんの浮気相手には感謝しかない。 早く自分を上書きしたい。抱かれるなら好きな人に、惚れた相手に自分の全てを捧げたい。そうするはずだった。でも、そうじゃなかった。 性欲なんてもの、今の私の脳内から消してしまえばいい。色恋ごとなんて、今はこりごり。恋愛はしばらくしない。速水くんに何を言われたって、もう、どうでもいい。 私には、記憶の中のそうちゃんがいてくれれば、それでいい。きれいな私でいる為にはそれしか手段を思いつかない。 大学で勉強して、バイトで世間を知って、少しお金を稼いで。ボランティア活動で新たな世界を知る。今の私には、それで十分だった。 もうしばらく、彼氏なんてものは作らなくていい。
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