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予鈴がなり、みんなバタバタ教室に駆け込んでくる。
柳さんも光井さんも自分の席に戻り、わたしも一時間目の用意を始める。
そして……カバンの中から一冊のノートを取り出した。
胸がドキッと大きな音をたてる。
「おはよう、若葉さん」
「きゃっ!」
「ああ、ごめん。驚かせて」
東雲くんが謝るジェスチャーをしながら隣の席に座った。
「あ、ううん。大丈夫!おはよう、東雲くん」
わたしはノートを机の中にしまう。
実はこれは東雲くんのために持ってきたものだけど、今はまだ見せるのが恥ずかしい。
あとで様子をみて渡してみよう。
東雲くんの横顔を見ながらそんなことを考えていると、教室がにわかに騒がしくなる。
その理由はすぐにわかった。
教室の後ろの扉から、男子生徒が入ってきたのだ。
まず目についたのは赤茶けた髪。半袖のシャツからのぞく腕もよく日に焼けている。
鋭い目つきに、不機嫌そうに引き結ばれた口元。
先生を殴ったなんて話を聞かなくても、近寄りがたさを感じたであろう雰囲気だった。
だけどスラッと細身で、身長も平均より少し高いくらい。
意外にもあまり喧嘩が強いようには見えなかった。
教室に緊張が走る。
たぶん、彼が…
「東雲くん、あのこ……」
「伊予くんだよ。ちょっと始業式から休んでいたみたいだね」
「………」
東雲くん、伊予くんが停学ってこと知らないのかな。
それとも知っていてあえて言わないのかな。
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