6人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
伊予くんがこちらを振り向いた。
無視するわけにもいかず、わたしは必死に笑顔を浮かべる。
頬のあたりが引きつっているのがわかった。
「わ、若葉 花です。よろしく……っ」
お辞儀をしようとすると、伊予くんがあっと小さく目を見開いた気がした。
そのとき。一瞬。本当に一瞬だけど。
伊予くんの目の色が変わった。
(え!!?)
驚いたものの、もう頭を下げかけていたので、そのままお辞儀をする。
すると、ガシャーン!と大きな音がして筆箱が床に散らばった。
「あ……」
どうやらお辞儀の勢いで机の上の筆箱に腕があたって落ちてしまったらしい。
教室の緊張がゆるみ、クスクスという笑い声があがる。
わああん、恥ずかしい。
急いで散らばった筆記用具を拾い集める。
「若葉さん、はい…」
隣の席の東雲くんも拾うのを手伝ってくれた。手のひらの上にシャーペンが置かれる。
そして、それと同時に東雲くんが顔を近づけささやいた。
「若葉さん、もしかして今、気付いた?」
「え?」
思わず声をあげ、東雲くんの顔を見る。
気付いた、って……
わたしは視線を東雲くんから伊予くんに移す。
今、確かに伊予くんの目の色が変化していた。
ほんのわずかな時間だったが、金色になっていたのだ。
そのことについて言っているの?
最初のコメントを投稿しよう!