見える【少年】

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「こ、これなんだけど」 ノートを差し出した手が震えている。 心臓がドキドキ暴れ始め、顔にすべての血液が送られてしまったみたいに熱くほてっている。 「ノート?俺、見てもいいの?」 「うんっ。あ、あのっ、わたし、魔術とかに憧れていた中二病だったって言ったじゃない?そ、それでそのとき考えていた……なの……」 「え?なに。ごめん、よく聞こえなかった」 「お、オリジナルの、魔法陣とか呪文なの!わたし、魔術士とかじゃ全然ないけど、自分がそれになりきったつもりで、そういうの妄想していたの!」 背中を汗がつたう。 いや、もう顔も汗びっしょりだ。 もちろん原因は、9月の暑さのせいではない。 そう。 これは私の押し入れに眠っていた黒歴史。 魔法陣や呪文をさんざん妄想して書き綴った中二病ノートだ。 昨日例の段ボールを開けて取り出したのだ。 「若葉さん……」 「わかってる!魔術士とかでないくせに、こんなのイタイって。 で、でも、あのとき憧れていたのは本当だから……」 手汗をぐっと握りしめる。 窓の外から蝉の鳴き声が響き、わたしをからかっているような気がした。 でもそれに負けずにわたしは続ける。 「だから、せめて……ちょっとでも憧れていた魔術士の手伝いをしたいな……って思って持ってきたの。ほら、東雲くん魔法陣なんかを考えるの苦手って言ってたでしょう」 「………」 「も、もちろん、わたしなんかのラクガキが参考になるなんて思ってないよ。でも、その……ほんのちょっとでも何かきっかけになればなあ……みたいな」
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