見える【少年】

8/14
前へ
/97ページ
次へ
「……若葉さん」 「…は、はは。本当に何かごめん…恥ずかしい」 「どうして?なにも恥ずかしいことないよ。 俺は嬉しい。……ありがとう」 東雲くんはノートを大切そうに胸に抱えた。 「これ大切にするよ。このノートの魔法陣や呪文をためすときは、一緒に見てくれるかな」 「あ、でも、本当そんな使えるものはないと思うよ?」 「そんなことはないよ」 ハッキリと。東雲くんにしては強い口調で否定した。 「魔術を使うとき大切なのは『信じる』ことなんだ」 「信じる?」 「そう。自分はできるって、この魔術道具は自分にあっているって、……自分は大丈夫だって」 そこまで言うと、東雲くんは少しだけうつむいた。 「…俺はそれが苦手で…。昔から魔術が上手くできないから、どうしても信じることが出来なくて、失敗して、ますます自分が信じられなくなる。その繰り返し」 「……東雲くん」 「でもさ、昨日、若葉さんが言ってくれたから…俺を信じるって。 だから俺は、そんな若葉さんなら信じられる。若葉さんが考えた魔術なんだろう。それで俺のために持って来てくれたんだろう」 「うん……」 「それなら信じるよ。きっと俺の力になる。ありがとう、若葉さん」 「わ、私こそ……ありがとう…!」 わたしたちは微笑み合う。 胸の中を何か温かいものが満たしていくのを感じた。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加