見える【少年】

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◆◇◆ そのあと、チャイムが鳴って完全下校の時間になったので、わたしたちは帰ることにした。 東雲くんと一緒に校門を出たが、家は真反対の方向なのでその場で別れることになった。 そんなわけで一人の帰り道。 転校してから一人で帰るのははじめてかもしれない。 柳さんや光井さんがいたから。 なんだかんだこの学校で、わたしは人に恵まれているよね。大切にしなくちゃ。 そんなことを思いながら、暮れていく空を眺めた。 九月になり、急に夕暮れが早くなった気がする。 まだまだ暑いのに、空は秋の準備を始めている。 茜色のグラデーション。雲に滲む橙。 美しいような、せつないような、胸がキュッとする空の色だった。 ……そういえば、今日、光井さんなんか元気なかったな。 柳さんと喧嘩したのかなと思ったけど、昼休みお弁当食べるときは普通だったし、なにか別に悩みごとがあるのかな。 明日は魔術の練習じゃなくて美術部の見学に行って、そのときにゆっくり話しを聞いてみようかな。 光井さん、ちょっとでも元気になっているといいな。 ゆっくり考えごとをしながら歩いて数分。 朝、光井さんと合流している交差点にさしかかった。 すると 「ふざけんなよ、伊予!?」 という怒鳴り声が聞こえてきた。
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