見える【少年】

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「…っち!」 伊予くんは落ち着いた様子で振り返り、相手の手を掴み、捻り上げた。 全く動じていない。まるで相手が自分に手を出すことがはじめからわかっているみたいだった。 「い、ってえ!」 掴まれた彼はうめき声をあげる。 「伊予お!テメー!」 もう一人が伊予くんに向かい走り出す。殴りかかろうとしているようだ。 でもやっぱり伊予くんは焦るような様子は見せない。 (……え?) そのときわたしは眼の前の光景に違和感を覚えた。 伊予くんは一人を捻り上げているのとは逆の手をかざし、走りくる男子生徒の拳を受け止めた。 それが……早いのだ。 男子生徒が拳を繰り出す直前に、伊予くんは手をかざしていた。 まるでそこにパンチが来るのがわかっていたかのように。 (……あ) わたしは伊予くんの顔を見て息が止まった。 変わっている。 伊予くんの目の色が、金色に変わっている。 伊予くん、いま、魔術を使ったんだ。 「ふっ!」 伊予くんは殴ってきた男子の足を払い、その場に転ばせた。 そしてもう一人の男子生徒の腕をさらに捻り、そのまま振り払うように地面に投げつける。 伊予くんは2対1のハンデなんてものともせず、あっという間に勝ってしまったのだ。 二人は悔しそうに地面にはいつくばる。 「これ、そっちから手を出したから。…オレは正当防衛だよな?」 「……っ」 「そういうことで、よろしく」 伊予くんが二人を見下ろす。 金の目が恐ろしく光ってみえた。
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