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「…っく」
二人は地面に座りこんだまま、動こうとはしなかった。
もう伊予くんに何かを言う気力はないみたいだ。
伊予くんは白けたように息を吐くと、今度こそ去っていこうとする。
わたしはそれを見ながら、身体が震えているのがわかった。
心臓がドキドキいっている。
でもこのドキドキは、東雲くんと一緒にいるときのそれとは全然違う。
冷たい血が身体を巡って寒気がするような。
そんな嫌なドキドキだ。
伊予くん、目が変わっていた。
それは魔術を使ったということ。
そして伊予くんに対して感じていた違和感も、今ハッキリわかった。
伊予くんは…反応が早い。はやすぎる。
何かが起きる前に、相手が何かを起こす前に反応しているのだ。
教室で先生が扉をあける前に、そちらを向いたり。
わたしがペンケースを落とす前に、すでに落としたかのように目を見開いた。
今もだ。
相手の行動に素早く対応しているようだが、正確には違う。
相手が行動を起こす前に対応している。
だからあんなに落ち着いてさばけているんだ。
伊予くんの魔術。彼の力。
彼は……たぶん見えている。
その目で、少し先の未来が見えているんだ。
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