『対面』

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 身の回りのこととなると女性同士の方が気兼ねがない。だけど、僕の場合はそれも困る。自分の事は極力自分でしたい。だけど、ここではそうもいかないのだろう。一瞬の隙も与えてもらえないことに一層身を引き締めた。 「こちらこそ。柊撫子です。よろしくお願いします」  慌てて頭を下げると、「仲良くさせて頂きましょうね」と微笑んだ。その笑顔はとても安心感を与えた。 「撫子さん。今後は、柊性を名乗らないように気をつけてください」  伊地知さんは厳しい口調でそう言うと、「今から馴れてください」と言った。  家を出た瞬間から僕は社長夫人になるべく教育が始まっているのだと気がついた。 「伊地知さん。時間はありますからゆっくりでいいでしょう」 「いえ、時間は1年しかないんですよ」 「まだいらしたばかりなんですから、徐々にと申しているのですよ」  恵美子さんは伊地知さんを押しのけるようにしてテーブルの側までやってくると、「香りのよい紅茶を用意しましたから、気持ち安らげてゆっくりされてください」と言ってティーカップに琥珀色の紅茶を注いだ。そして伊地知さんを連れて部屋から出て行った。 「………ふぅ……」
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