340人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
行儀が悪いとは思うけど、僕は奥のベッドに身を投げた。フカフカのベッドはふんわりと僕を包んで、微かに香る甘い匂いに気がついた。
紅茶とは違う甘い匂い。花のような……でもこの部屋に花は生けられてない。
甘くてもくどくなく、落ち着く香り。
その香りを胸いっぱいに吸い込むと目を閉じた。
ここ最近目まぐるしいほどの環境の変化に眠れずにいた。昨日も緊張からかあまり眠れなかった。
こんなに気持が落ち着くのは久しぶりだ……。
微かに人の気配を感じた。
母さんが起こしに来たのか。
まだ起き切れない頭で、もう少し寝ていたいのにと愚痴をこぼす。
「………寝てしまうの?」
ため息と共に溢したような柔らかい声音。責めるでもなく起こそうという意思も感じられない。
その聞き覚えのない声にはっと気がついた。
慌ててガバッと起き上がった。
「あれ? 寝たふりだった?」
首を傾げた人物はふんわりと笑うと、「鷹が声をかけても返事がないって言うから」と言った。
鷹? 誰?
「え、いえ……寝てました……す、すいません」
最初のコメントを投稿しよう!