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――ヴォンにも夕食を振るまった。
「ヴッ――! くっ……ぐっ!」
これも出来合い物で済ませることができたが、手書きのほうが喜ばれるそうなので、図書館で時間をかけてちゃんと書いてきた。
「あぁっ……なァ!?」
ヴォンはベッドで身をよじる。自らの腹をぐいぐい押し込んではみるが人のように吐けはしない。あまりの美味に牛のように反芻して味わおうとしている――わけではなさそうだ。
首を乱暴に振るって耐えようとするが、角に引っかかった枕が宙を舞うだけで、ヴォンの身のうちの不快感が消えるわけではなかった。
「ゲロ不味ィ……! 気分も悪ィなんだこれは!?」
今度はいろはが饒舌になる番だった。
「ヴォンは教えてくれたよね、手書きで想いがこもっているものがおいしいって。だったら手書きでも想いがこもってないものなら――無心でただ、ひたすらに書いたものなら、どうなんだろ、ってわたし、気になったんだ」
「それにしたってこいつは不味すぎる、完全にゼロで書かなきゃここまでならんぞ。オレへの仕返しの気持ちがまったくこもってない、ありえねぇ……! 仕返しのために動いたはずなのに、なにしてた!?」
ノートを開く。前半のページがごっそり破り捨てられていた。
「写経」
「想いがのってそうな前半を捨てたってのか! ていねいな仕事だな!」
「それほどでもないよ」
いろはは悪ぶって笑ってみせる。直後、困ったような顔になった。
「……ごめん」
「謝るな、オレはそれだけのことをした」
「わたし、こういうのは向いてないな。気分が晴れない」
「苦しみ損かよ」
なにそれ、といろはは力なく笑った。
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