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 元より自分には友人が少ないが、それでも親しい人間はいたこと。教室で読んでいた文庫の作者がマイナーで自分たちの親世代の人間だったこと。  御厨英我(みくりやえいが)という級友がかっこいいらしくて文武両道の人気者であること。いろはが読んでる本を御厨の親も読んでいて、面白いか訊ねられたこと。面白いので読んでみればどうかと淡白に勧めたこと。  読んできた御厨と感想を言い合ったこと。向こうが意気投合した雰囲気を出してきたこと。  自分はあくまで淡白を貫いたこと。  逆にそれが御厨の気を惹いてしまったこと。  玉峯(たまみね)という学級委員でクラスの中心的な女子はそれを快く思わなかったこと。  最初は挨拶を無視されるていどのものだったこと。廊下を歩けば背後で玉峯たちが囁やきあう声がしたこと。自分は、お高くとまってるなんて言われ始めたこと。  数少ない友人も目を合わせてくれなくなったこと。  登校したら自分の机に花瓶が置いてあったこと。  ――そんなことをいろはは嗚咽でアンダーラインを引くように訥々と語った。  ヴォンが食事するすがたに一度は引っ込んでくれていた涙はこれまでのことを振り返るうちにふたたび溢れてしまっていた。
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