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「わたしは色目を使ったんだって。そんなもので御厨くんの気が惹けるというなら自分も使えばいいのにね。御厨くんはたぶん、追いかけたいんじゃないかな。玉峯さんとか、ほかのクラスメイトたちは御厨くんを持て囃すけど、わたしはべつにそんなつもりなかったから、それが新鮮に映ったんだと思う」 「すでに孤立したなかにあるうえで合理的に考えれば、実際にくっつくのも悪くはないだろう」 「そんなの、失礼じゃない? だってべつに好きとかないもの。それに実際に付き合ったところで向こうが冷めるほうが早いよ。きっと、わたしが逃げるから興味を持ってるだけ」 「オレには興味を持たれるに足る魅力はあるように見えるがな」 「大事な食事の供給源だものね」 「そうじゃない、世間一般から見ても魅力があると言っている」 「ご機嫌取りしなくても食事はあげるから安心して」 「まったく、卑屈なもんだ」  ヴォンはベッドの縁に腰かけて短い足を揺らしながら鼻を鳴らす。  椅子に横向きに座って背もたれに半身を預けながら語り終えたいろはは息をつく。すこしだけ心が楽になった気がした。  それでも机に向き直ると癖で引き出しからノートを取り出す。これまで誰かに聞かせることはなかったから、ひとまずこれに書き殴って感情を誤魔化していたのだ。  読み返すつもりもない、悪感情の吐露を今日も始める。  背中に感じた視線に振り返って問いかける。 「内容で味が変わったりとかあるの?」  ヴォンはしばし逡巡する。適切な語彙を探しているようだった。 「内容は関係ない。それを書いた人間の想いの強さで淡白か濃厚かは変わるがな。あとは手書きなのはやはり美味い。反対に想いがこもっていても広く頒布されたものは薄まっているようにも感じる」  書きかけのノートを掲げてみせる。 「こんなのはご馳走ってこと?」 「そうなるな」 「食べる?」 「体調が戻ったら是非ともいただきたいもんだ」  いまにもよだれをたらしそうなヴォンのようすにいろはは花がほころぶように笑った。
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