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 いろはがヴォンを拾って三日が経過していた。日中は人のいないアパートの一室においてヴォンは我が物顔で闊歩する。二足で歩くその体高はいろはの膝に届くかどうか。  リビングでテレビを観て過ごしては百均の日めくりカレンダーの数字をスナック感覚でつまんでいた。しかしどうにも味気ない。人がペット用のスナックを食べたらこんな感じだろうかとヴォンは思う。  体調は戻った。そろそろ食べる頃合いだった。  どうせなら腹を空かせておこうと、ワイドショーからチャンネルを切り替えた先で見つけたアクション映画の大立ち回りの真似をする。  隻角にバランスを失いながら短い手足を振るう姿は異民族の奇っ怪な儀式を思わせる。  夕食どき。 「いただきます」  そのノートの表紙にはタイトルもなにも書かれていない。ただその中身は怨嗟や憎悪がたっぷりと詰まっている。  ヴォンはそんなことお構いなしに食べていく。  最初のひと口からしてもう格別だった。  長旅を終え、里帰りした先で母親が手間暇かけて用意していた煮込み料理を連想した。  望郷。  故郷のことなどなにも覚えていないヴォンにさえ、そんな感想を抱かせる馳走だった。 「ごちそうさまでした」  ヴォンは茫洋と宙を眺め余韻に浸っている。  ――こんな姿が見られたのだ。一見、意味のないように思えた自分の行為は他者の役に立った。  購入時と同様になったノートの罫線を指でなぞって、いろはは気分が晴れた思いだった。
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