星屑拾いのルーノ

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 授業中、先生がチョークでカツカツ書いている間、ルーノはティアと話した星の事を思い返していた。  痛むってことは、星は柔らかいのかな。教科書のどこにも星の感触は載ってない。それどころか、姿形も色もわからない。教科書の星の写真は、遠くの夜空の上で瞬いている星を映していた。近くで写真を撮ろうとしても、カメラのフィルムに映らないから撮れない、と学校の先生は言う。フィルムに残っていなくても、その美しさは目に焼き付くから、一度星を間近で見たら忘れられないのだそうだ。 「そして、採れたてである程、星は人を魅力させる光を放つのです。」 先生がチョークを持つ手を止める。その間に、ルーノたち生徒は、黒板いっぱいに書きだされた星の特徴を、一生懸命にノートに写す。 「星との出会いは、人生を変えます。皆さんは学生という、とても多感な時期にこの星降りの夜が訪れます。」 先生は続ける。 「ぜひ、その日は窓から星が降る様子を見て下さい。出来れば、星屑拾いが売っている星を買ってよく観察して欲しいけれど、星はとても高いので、ご両親に無理を言ってはいけませんよ。先生も一つ欲しいけれど、先生は先日、研究用に魔術書を取り寄せてしまったので買えません。衝動買いは怖いモノですよ。皆さんも気を付けてください。」 先生が肩をすくめた。教室に笑いがこぼれる。 「先生、星降りの夜は危ないから、外に出ちゃ駄目ですよ。」 誰かが先生に言った。 「ええ、星屑拾い以外が星降りの夜に外に出たら、星の魅惑に逆らえずに、大変なことになってしまいますからね。」 「先生、大変な事って、何ですか?」 先ほどとは違う子が、きらきらと輝く目で先生に聞く。 「皆さんの中には、聞いただけでショックを受けてしまう人もいるでしょう。気になるなら、家に帰ってお父さんお母さんに聞いてみてください。」 ざわざわとクラスが騒がしくなった。 「では、これで今学期最後の授業、星降りの夜についての授業を終わります。」 先生はパタンと教科書を閉じて、教室から出ていった。 「ルーノはいいなぁ。」 クラスメイトの一人が、ルーノを見て呟いた。 「星屑拾いの弟子だから、星降りの夜に外に出ても大丈夫だし、星を近くで見れるし、それに、触れるんでしょ。」 みんながルーノに集まってくる。かあっと、ルーノの頬が熱くなった。 「あ、うん。」 もじもじしながら、ルーノは答える。 「星屑拾いの修行って、何するの?」 「星って、どんな姿をしているのか聞いたことある?」 「星を拾ったら見せてよ、お願い。」 「星って休みの日には何をしてるの? ピクニック?」 次々に質問がルーノめがけて飛んでくる。 「ルーノの奴に言っても、どうにもならないよ。」 隣の席に座っている子が言った。 「まともに話せたことないんだもの。いつももじもじしてさ。」 「でも、さっきは答えてくれたよ。」 みんなの目がこっちを見ている。ルーノが何か言うのを待っているのだ。恥ずかしくなってルーノはうつむいた。 「何か言ってよ。」 誰かが言った。 「えっと、その。ほ、ほし、星は、じゃなくて、ぼくは。」 ルーノの心臓がバクバクと暴れて、早く答えろとせかしてくる。 でも、何から答えればいいのだろう。何を聞かれたのだっけ。頭の中が真っ白になる。目頭に熱いモノがこみ上げて来た。すると突然、誰かにルーノは引っ張られた。気がついたときには、教室を飛び出していたのだ。
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