星屑拾いのルーノ

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 星降りの夜から三日。もうすっかり、元通りになって、一日に昼と夜が同じくらい訪れている。ルーノはティアといつもの本屋に来ていた。いつもと違うのは、今日は本を買いに来たのではなく、星を売りに来たということだ。ルーノは手の中の小さな瓶を見つめた。オレンジ色の光がゆるりとルーノの事を見つめ返した。ティアが『レガード書店』と書かれたお店の扉の扉を開ける。 「こんにちは、レガードさん。星がご入り用だとお聞きしました。」 ティアがはきはきと言った。 「こんにちは、ストゥルタさん。よく来たね。眼鏡の魔法も無事解けたようでなにより。」 おじいさんは、いつも通りカウンターにどっしりと座っていた。 「ほら、お前も挨拶するんだ。前は途中からいたのに、結局本を読みふけって挨拶してなかっただろ。」 おじいさんが横を向いて誰かに話しかける。 「あら、お孫さんですか。」 ティアが微笑んだ。 「孫じゃなくて、弟子でね。休みの日に手伝わせてるんだよ。根っからの本の虫で、気がつくと本を読んでさぼってるから、目が離せないのさ。」 本棚の影から、おじいさんの弟子が出て来た。ものすごく背が高い。 「こんにちは、ストゥルタさん。それに、ひさしぶりだな、ルーノ。」 ルーノは目をこすった。のっぽのサーゴだ! 「もしかして私の弟子と知り合いなの?」 ティアがサーゴに話しかけた。 「学校で、同じクラスなんですよ。」 サーゴがルーノに向かってにやっと笑った。 「友達なの?」 ティアがルーノに聞いた。 「友達になれたらいいなって思ってる子だよ。」 ルーノが答えると、サーゴは目を開いた。 「あれ、俺たち、とっくに友達だって思ってたんだけど。」 「えっ。いつからぼくたち、友達だったの?」 ルーノはサーゴとのことを思い返したが、友達になろうなんて、言われた覚えがない。 「えー。色々話しただろ。また来学期って言ったし。」 サーゴはガシガシと頭をかいた。 「それって、友達なの?」 「友達だろ。少なくとも、俺の中ではそうだ。まず、俺が本よりも誰かを優先するって、そうそう無いことだぜ。特別扱い、つまり友達さ。」 「じゃあ、ぼくの中でも、サーゴは友達だよ。同い年の子であんなに話した子、他にいないもの。」 ちょっと考えてからルーノがそう答えると、サーゴ目を輝かせた。 「だな。俺ら、友達だ。」 サーゴはニコニコ笑って近づいてきて、バシバシとルーノの肩を叩く。 「痛いよ。」 ルーノは大げさに声をあげた。 「おい。やめんか。小さな子供をそんな乱暴に扱うな。」 おじいさんが声を荒げた。 「なぁ、じいさん。こいつ俺と同い年なんだぜ。」 サーゴがルーノを指さして言った。おじいさんは舌を鳴らした。 「お前は大人になるのに急ぎすぎで、かわいい時期を通り越してる。」 「腑に落ちねぇな。」 「お前だって、その子を甘やかしているだろ。こっそりお気に入りの菓子を学校に持って行ってやるくらいは。」 おじいさんが言い返した。 「だって、俺、下に弟妹がいないからさ。つい、いたらこんな感じかなって扱っちまう。」 「わしのこれも、似たようなものさ。」 「へいへい。」 サーゴが肩をすくめた。 「こほん。」 ティアが咳払いをした。みんながティアの方を見る。 「それで、星についてのお話に戻っていいでしょうか。」 「ああ。」 おじいさんは頷いた。 「とある小説の結末が知りたい。それが書かれた本は、後ろ半分がずいぶん前に焼けちまってるし、地上じゃもう手に入らない。こんな願いは、天上の星に頼むにうってつけだろ。」 ティアがルーノの方を見た。 「それでしたら、ルーノが拾った星が適任です。」 「ぼくの星が?」 ルーノは思わず聞き返した。 「ええ、あなたの魔法は、知識全般に作用する効果もあるから。きっと星もその効果を持ってるわ。」 「じゃあ、その星を買おうかね。この間、高い魔術書をどっかの学者だかが研究用に買っていったから金はちゃんとある。」 おじいさんはカウンターの下から小さな袋をいくつも取り出した。見るからにずっしりとしている。 ルーノは手の中の星にささやいた。 「このおじいさんに君を売っても、大丈夫?」 『ぼくは構わないよ。それに、安心したよ。キミはちゃんと友達が出来たんだね。』 「うん。」 『じゃあ、お願い事を叶えて、天上へ帰るよ。本当はね、地上に降りてくる気はなかったんだ。けど、君に友達がいるか不安になって降りてきちゃった。ひとりぼっちって寂しいもの』 「ありがとう。ぼくには、最初からキミっていう友達がいたんだね。」 星は、きらりと光った。 『もし、地上が退屈になったら、帰っておいで。ぼくだけじゃなく、みんな待ってるから。』 「わかった。」 ルーノは、おじいさんに瓶を渡した。おじいさんが厳かに蓋を開けると、オレンジ色の光は鋭い光線を出して、みんなの顔を照らした。まばたきの間に、瓶の中は空っぽになった。 「完成した。」 おじいさんの目から、ボロボロと、まるで星のように涙がこぼれ落ちた。
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