渇心

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 一言でいいの。『ありがとう』とか。  夫だって新婚当時はちゃんと伝える人だったんだ。  それがいつしか当たり前になって、言葉が減っていった。何気ない日常の会話もなくなった。  そうすると私はただ身の回りの世話をするだけの人間だ。それって私じゃなくてもいいじゃない。もっと言えばロボットでもいいじゃない。 「友梨も成人したし、いい機会だわ。別に今回のことは浮気じゃないけど、あなたが許せないと思うなら離婚しましょう」 「はぁ⁉︎」  驚いて大声を出した友梨と対照的に、夫は飛び出すんじゃないかというくらい、目を見開いた。 「だってあなた達は家事をしてくれるなら、誰でもいいわけじゃない。むしろ家政婦さんの方が割り切れていいんじゃない? それとも妻ならお金がかからなくていいとでも思っているの?」 「そんなことは……」 「友梨が成人して思ったの。この先、友梨が自立してあなたと二人になった時、私には孤独しか想像出来なかった。今、変われないなら、別れましょう。この先、会話もなくただあなたのお世話だけをする老後なんて真っ平よ」  突然の私からの宣言に、夫は言葉をなくした。
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