渇心

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 足取り軽やかに階段を上り、自室のクローゼットにある私専用の衣装ケースの引き出しを引っ張る。畳んである服の下にはタンスシートが敷いてある。  ……その下。  そこにはこの前、夫から問い詰められた出費、百五十万が隠してある。  夫も友梨も絶対にここには近づかない。なぜなら二人とも自分の部屋に衣装ケースはあるし、その衣装ケースに服を片付けるのは私の仕事だからだ。  ネット口座を開設することも考えたけど、その方が見つかる可能性が高いと踏んだ。  百五十万じゃ離婚しても生活できやしない。だけれど何かがあった時に咄嗟に動けるお金というのは、用意しておくべきだ。  とはいえ夫の改心が嬉しくないわけじゃない。添い遂げようと一緒になった相手なのだから。 『病めるときも、健やかなるときも』ね。  スマホのトーク画面にある、アレックスのトーク画面を開く。 『愛しているよ』  心のこもっていない言葉でも、渇いた心にはとても沁みたわ。思わず何度も見てしまったくらい。  夫がこの言葉を今後言ってくれるかはわからないけど、最後にもう一度、夫の事を信じてみようと思う。  だから、バイバイ。アレックス。  ――削除しますか?  赤いボタンを、そっとタップした。  
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