渇心

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 一人娘の友梨が小学生になったタイミングで仕事を探し始めた。夫からは働かなくてもやっていけるんだからと、あまり賛成されなかった。  短大卒業後すぐに結婚して専業主婦となってしまった私に、働き口など見つかるはずがない。それより家の事をしっかりやってくれればそれでいい、不自由はさせないと。  夫の言うとおりだ。それでも、外に出たかった。  今で言うワンオペ育児でずっと子供と二人きり。幼稚園のママ友は一見和やかそうに見えて、お互いの生活水準を探り合い、受験の有無やランドセルの基準で優劣を密かにつけられていたりしていた。そんな付き合いにも辟易した。  友梨のママとしてではなく。妻としてでもなく。  一人の人間として、社会と関わりたかった。  実際は甘かった。  全然仕事は見つからないし、ようやくパートで働き始めても夫は変わらず家庭の事は関知しないワンオペ状態。  友梨が熱を出した、怪我をした、学級閉鎖だ、なんだかんだ……声には出さなくても迷惑がられているのを肌で感じて仕事が続かなかった。  小学生のうちは甘えん坊だった友梨。私が仕事を辞めると明らかに喜んだ。それを見ると、寂しい思いをさせて外に出るのはよくないのか、悩む事も多かった。結局小学生時代はあまり働けなかった。  それでも家にいると娘が喜んでくれるから。そうしたら私も嬉しいからと思っていた。  それも小学生までのおはなし。中学生になった友梨は外の世界へと羽ばたいていき、私との会話はどんどんと減っていった。  それなら今度こそと、私は再び働き始めた。  
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