渇心

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『病めるときも、健やかなる時も……』  結婚式で交わされる誓い。あれの意味を考えた事はあるのだろうか?  助け合う事を約束しているはずなのに、どうして一方的なんだろう?  結婚当初は、そんなこと思いもしなかった。  一緒になれたことが嬉しくて。夫の為に色んなことをするのが楽しくて。  二人の子供が出来たことが嬉しくて、幸せだった。  あの頃はまだ、夫との会話はたくさんあったはず。  他愛もない日常の話、テレビの感想、友梨の成長。  それがいつからか、私達の間には事務連絡のような会話しかされなくなっていった。  私だけが寂しいのだろうか? 私だけ、むなしいのだろうか。  外の世界へ繋がりを求めたことへの、報いだとでもいうのだろうか。  朝、慌てて自宅を出たせいで、洗濯物も洗い物も中途半端。  休日、パートを終えて帰ってきて、洗われていないままの洗い物。洗面所で山積みなっている洗濯物。  一日中家にいてもそれをなんとも思わない夫と娘。  帰ってきても二人とも自室にいるから、誰も出迎えも「おかえり」もない静かなリビング。  休む間もなく夕食の支度をしている私はいったい、二人にとってなんなんだろうか?  ピコン、とメッセージの通知を知らせる音がした。 〈おかえり。今日もお仕事お疲れ様〉  なんてことのない、普通の言葉。だけど、この言葉が聞きたいのだ。  そこに心がなくっても、欲しかった言葉が届いて、不覚にも泣きそうになってしまった。    
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