渇心

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「なぁ、聞きたいことがあるんだが」  珍しく夕食後に夫が話しかけてきた。いつもなら食べ終わるとすぐに自室へと行ってしまうのに。  いつもは自分の分だけ用意するお茶を、夫の分と二つ用意をして椅子に腰かけた。向かい合わせで座った夫は、少し厳しい顔つきをしていた。 「最近、口座の減りが激しいんだが、いったい何に使っているんだ?」  スマホでファミリー管理にしているので、口座の履歴は夫も確認できるようになっている。確かにここ数か月で、見る見るうちに残高が減っている。 「一か月に五十万ずつ。それが三か月続いている。おかしいだろう?」 「それはほら、友梨の受験の費用とかね」 「それは教育用の口座を用意していただろう?」  ……覚えていたんだ。確かに友梨が生まれた当初に口座を作って、そこにずっと貯めていた分と、学資保険の分が入っている。実際、夫の言う通りそこから受験費は捻出している。  そんな簡単に誤魔化されないか。 「たまには、贅沢したっていいでしょう?」 「月に五十万、使った割に何か変化があったように見えないが?」 「あら、あなたにわかるの? 美容院に行っても気づかないのに」 「几帳面なお前の事だ。何か買い物をしたなら明細を残しているだろう?」  伊達に夫婦生活を二十年近くやっていたわけじゃないわね。  興味がないと思っていたのに、意外とわかっていることに驚いた。 「……明細は、ないわ」
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