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「美空のお父さんの13回忌なんだけどさ」
「なにそれ?」
「春休み中に身内だけでやるんでしょ?でもうち近所だし、僕の母さんが香典だけでも包んで持ってくって言ってたよ」
幼馴染の真田湊くんと初詣中、唐突にそんなことを言われて私の思考は停止する。
「美空?聞いてる?おーい?白井美空さーん?」
「聞いてる聞いてる。あの、でもお父さんって?誰の?」
「だから美空のお父さんだよ」
「私にお父さんがいたの?」
露骨に難しい表情になった湊くんは、私を近くのベンチに座らせて「お父さん」について色々話してくれた。頭が良くて、若くして理系の大学教授だったこと。仕事の合間に私や湊くんをよく公園で遊ばせてくれたこと。そんな話を聞いているうちに、ぼんやりとそんな人がいたなと思い出してくる。
「どう?思い出した?というか家に仏壇あったよね?お墓参りだって行くでしょ?」
「そうだけど、深く考えてなかった。それに……」
「それに?」
「いつか公園で遊んだ時に、なんかすごく嫌な事があった気がする……」
眩暈がする。だめだ、なんか。
これを思い出してしまうと私自身を否定されてしまうような恐ろしい気分になってくる。フラつく身体を湊くんに預けた私は、溢れてきそうだった記憶に必死にフタをした。
理由はわからない、というか思い出したくない。
きっと私は自分の意思で、記憶の中からお父さんを消したんだ。
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