現代病の若者と空腹の少年

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チョコレートにポテトチップス、おにぎりにカップ麺。  今は、飽食の時代。食べるものならいくらでもある。 しかし、満たされない気持ちを抱えて現代人は生きている。  いくら体が肥えても、心は豊かにはならない。 いくら食べても満たされないような気持ちを抱えている。 そんな現代人の若者が、今夜も夜食を買いにコンビニに向かう。  「今日は、何にしようかな。カップ麺かな…… でもどれも物足りない。 いくら、飯を食っても満足できないんだよな……」 寝ぼけた目をしながら、商品を選ぶ若者は、現代の加工食品に毒されていた。 ニコチン中毒、アルコール中毒…… そんな風に人間は物質に依存していくが、加工食品もさまざまな化学物質が入っていて、知らず知らずのうちに、人類の体を浸食していた。  商品を探すのに疲れた若者は、ふと横に目をやると、事の一部始終を目の当たりにした。 万引きの一部始終を。 1人の少年が、たった一つのおにぎりをレジに通さずに出口へと走っていたのだ。 若者は咎めることにした。  「ちょっと待ちなさい。そこの君」 少年は、素早く走り去ろうとするが、夕暮れの雨で濡れたコンビニの玄関で滑って転んでしまっな。 「そら、悪いことしようとしたから、バチが当たったんだ」 「お前に何がわかるんだ」 少年はやり場のない怒りをぶつけるように睨みつけて呟いた。 「あ?」 「毎日の飯がいつどこで食えるかもわからない、僕の気持ちがどうしてわかるんだ。 今日だって、何も食ってないんだぞ」 そう語る少年はどこか悲しそうだった。 若者はそんな彼に同情すらせずに 「へー。君って貧乏なんだ。でも万引きは良くないよ。さあ、店の人に言うからね」 そう若者が言うと少年は、ひもじそうに切なそうに言った。 「お腹がすいたんだ」 その時、腹の音はならなかった。 だが、ボロの服をやつれた体に纏う彼が空腹なのは、世間知らずの若者でも想像に難くなかった。  「しょうがない。それを買ってあげよう」 「え?いいの?」 少年は驚いたような声を出す。 若者は、少年が盗もうとした、たった一つのおにぎりを買ってあげた。 コンビニの外の公園のベンチで2人で買ったものを食べた。 少年はおにぎり、若者はカップ麺を。 「美味い!とても美味い!」 少年は、食べ始めた時に、感動してそう叫ぶと、そこからは何も言わずにおにぎりを噛み締めていた。 とても美味しそうに食べる少年に若者の方も感動してしまった。 だが、たかが、おにぎり一つでなぜ喜ぶのか、若者には理解できなかった。 「そんなに美味いか。よかったな……」 「うん。ありがとう!おじさん!」 「おじさんじゃねぇよ!」 若者は、少し気が立ったが、少年があまりにも満足な様子でいることに心を奪われた。 「ぐっ……」 「どうしたの……?おじ……お兄さん」 若者は、急に腹部に激痛を感じた。 ああ……そうだ。 俺はこんなジャンクなものばかり食べていたから病気になったのか。 現代病は、現代人が食料を食べやすい形にした結果、急激に増えていった。 現代人の現代人による現代人のための病気 ーーそれが現代病である。 この少年のように貧しかったらならないのだろうか。 いや、違う。 この少年が、どこにでも売っている安くて油っこいおにぎりに魅了されたように、簡単に手に入り、簡単に食べられる、それが入り口なのである。 気がついたら、その手軽さと化学物質に病みつきになり、中毒になっていく。 もはや若者は、この毒を摂取し過ぎたことにより、まともに動けなくなっていた。 この少年もこの毒をあんなに美味しそうに食べていた。 彼も、いずれ病気になるのだろうかなどと、つかぬことを考えていると、 「お兄さん。病院行く?救急車は?」 少年は心配をしていた。 「頼む。この携帯で……」 と若者がリュックを開き、携帯を渡そうとした時、 「全部もらっていくね。おじさん」 少年はそう言い、スマートフォンや財布の入っているおじさんのリュックを持って走って行った。 少年は風のように身軽だった。 「待て!」 毒された体では、走る体力もなく、とても追いつけない。 ただ、若者は、痛みの中で、簡単に手に入る毒を恨むばかりであった。
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