キスしかしてないんだよ

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キスしかしてないんだよ

 首領のベガは納得出来ないようだ。 「ッで、どうするの。堕ろしてしまうのかしら?」  院長のマリアはカルテを見ながら平然と言った。よほど馴れているようだ。 『いやいや、何を言っているんだ。お腹の子どもにはなんの罪もない。無事に産まれたら我輩が育てることにしたんじゃァ!』  慌てて首領のベガが抗議した。 「あらあら、それで良いの。アンジェラ?」 「えェッ?」  アンジェラはチラッとジャスティンの顔色を(うかが)った。 「お言葉ですが、お義父さん」  ジャスティンはシリアスな顔で応えた。 『ぬうゥッ、お前にお義父さん呼ばわりされる覚えはない。良いか。子どもを堕ろす事は決して許さんぞ。何があろうと産まれてくる子どもにはいっさい罪はない。だから我輩が責任を持って預かる!』  悪の首領はアンジェラに命じた。思わずアンジェラは眉をひそめ視線を逸らした。 「いや、アンジェラとお腹の子どもの事は、オレがちゃんとケジメをつける」  ジャスティンは啖呵をきった。 『ぬうゥッ、なんだとォ、ケジメだとォ?』 「もちろんアンジェラとは結婚するし、子どももオレたち育てる!」 「え、ジャスティン。マジでェ?」  アンジェラの表情がパッと華やいだ。 「ただどうしても納得できないんだけど。オレはまだアンジェラとはエッチをしてないんだ」  ジャスティンは思い悩んだ顔でつぶやいた。 「なによ。じゃァ、私が二股して、どっかの誰かの子どもを作ったって言うの?」 「いや、違うよ。そういうことじゃないんだけど。マジでアンジェラとはキスしかしてないんだよ」 『黙れ。ジャスティン。我輩の大事な愛娘とキスをしたなどと、不埒(ふらち)な悪行三昧。たとえ神が許そうと、この悪の首領ベガ様が許さんぞ!』 「いやいや、いつの時代よ。不埒(ふらち)な悪行三昧って」
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