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VS白魔導士②
「もおー暗い森に女性が一人でいくのを、こそこそ、ついてくるなんて野暮ねえ。
排尿か排便か、逢引かもしれないのにい」
繭に全身包まれ、地面にころがる俺の目前にあらわれたのは、もちろん白魔導師。
顎をそらし、冷ややかに見おろす表情も、ふんぞり返って、腰に手を当てる態度も、いつもの可憐で清純なイメージが見る影もなく、キング・オブ・ザ・悪女。
人に変化した、正体は魔物?
そう思えるものの、ちがうだろう。
知能も魔力も高い魔物は、人に成りすますことができるとはいえ、二十四時間、何日も継続するのは無理。
ましてや、戦闘やセックスなど、心身の負担のかかることをしては、ボロがでやすい。
白魔導師はほぼ一日中、誰かと接しているし、たいてい戦闘に参加しているし、一週間に二三回は勇者とセックスしているし・・・。
女装王様のように性別を偽っているとか?
いや、なににしても、魔物でなく、正真正銘の人間というほうが不可解だ。
「ど、どうして、神に仕える立場の白魔導師が、魔王の手先、スパイのようなことを・・・。
平気でいられるわけがないのに。
魔王と通じておいて、クロマドウシクズレのように堕落しないでいられるなんて」
繭を揺すりながら質問を畳みかければ、片眉をあげて「かんたんな話よ」と鼻を鳴らした。
「私は魔王さまを愛してる。
かといって、敵対関係にある神さまをやっぱり愛しているの。
私が今、クロマドウシクズレのように落ちぶれていないのは、どちらへの愛も偽りがないと認められ、どちらからも加護されている証拠ね」
「あ、でも勇者のことは愛していないわ」と笑うのに、むっとして口を開こうとするも、口元に人差し指を立てて「まあ、まずは、わたしと魔王さまの馴れ初めから聞いてちょうだい」と。
「はあ?」と柄のわるい声をあげれば、きつく繭を絞めつけられ、しかたなしに白魔導師の魔王愛を聞かされることに。
「わたしは昔から、とんだ美少女で、まわりは放っておかなかくてね。
とくに男どものアプローチはウザかった。
イジメて気を引きたいなんて、横柄なかまって野郎が、どれだけ私を踏みにじって愚弄したか。
すっかり男ギライになったわ。
一生、未婚の処女でもいいと思うくらいに。
といって、私が避けても拒んでも、察しない馬鹿男は寄ってたかってくる。
そいつらに、付けいれられないよう、乱暴をされないよう、細心の注意をはらって身を守っていたけど、ほんと、イヤになるほど、放っておいてくれなくて。
人身売買をする、悪党に攫われてしまった。
でもね、万が一こうなることも予測して、備えてあったのよ。
自決用の毒薬を持っていたから、売られる前に、隙を見て命を断とうとした。
その直前に、私の乗った荷馬車が魔物に襲撃されて。
どうやら、魔王さま一行が移動中にでくわしたらしい。
魔王さまの行く手を荷馬車が阻んだのが、運の尽きね。
荷馬車をひっくり返して、逃げまどう連中をひとひねりで皆殺し。
わたしはどうせ死ぬつもりだったから、その凄惨な光景を、いっそ清清しいように思って眺めていた。
荒れ狂う魔王さまをまえにして、そんな達観したように、ぼうっとする人間はほとんどいないから、見逃されたでのでしょ。
連中をすべて血祭りにあげたら、魔王さまの部下が私のもとにきて、じろじろ顔を見て云った。
『どうしますか、この女を慰みものになさいますか』って。
背中を向けていた魔王さまが振りかえったのを見て、ド肝を抜かれたわ。
私なんかより、おそらく女神さまより、美しいお方だったから。
しかも、わたしをちらりと見て、ほとんど顔色を変えずに、おっしゃった。
『どうでもいい、捨て置け』
そりゃそうよ!魔王さまの美しさに比べたら、わたしなんてゴミ屑なんだから!
それにしたって、私の容姿を無価値と見なす、魔王さまの気高さといったら!
そこらの腐った男どもと一線を画す、美しき魔王さまになら、抱かれてもいい!
いいえ、抱かれなくても、魔王さまのために尽くしたい!
その場で頼みこんだら『頭がおかしな女だ』って褒めてくださって、今に至るわけ!」
もともとは、前世にプレイしていた2Dドッド絵のRPG。
転生してから、あらためて会った白魔導師はイメージどおりの愛らしい容姿に、清純で健気な性格をして、ゲーム内容と同じく、勇者とラブラブだった。
ゲームプレイ中も、転生後も、男不信で魔王崇拝の裏切り者とは、まるで気づかず。
転生後の世界のオリジナル設定なのか、もともとのゲームの裏設定なのか。
そういえば、最後までゲームをしていないし。
終盤で裏切り者と判明する、大どんでん返しなシナリオだったのだろうか?
「・・・じゃあ、はじめから魔王に協力するため、勇者にとりいって仲間になったとか?」
いや、勇者一行の一員となった今も、そりゃあショックだが。
ゲームをしていたときは白魔導師推しで「一晩だけでも、相手してくれないかあー」と惚れ惚れしていたから、夢がブレイクしたというか。
といって「この裏切り者め!」と怒りはない。
これまで、すこしも魔王のスパイと気取らせなかった、白魔導師の完璧な猫かぶりにいっそ惚れ惚れするほど感心。
が、いや待てよと、すこし冷静に。
「魔王のスパイのわりには、妨害工作をしていないよな?
寝首をかくとか、罠にはめるとか、貶めて評判を落とすとか、戦いで足を引っぱる、旅を遅らせる、断念させるとか・・・。
だったら、お前の目的はなんなんだ?」
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