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VS女王②
魔王が満を持して、世界を荒しだしたら、他国もオトメルを侵略している場合でなくなる。
いや、狡猾な魔王なら、そうやって国同士でつぶしあいをさせ「手間が省けたわ!」と高笑いするかもしれない。
結局、人が滅亡しては元も子もないのだから、国同士の小競りあいにかまけるより、いち早く魔王を叩きつぶすべき。
といって、慈悲ぶかき勇者はオトメルを見捨ててもいいとは思わず。
頭をひねって、女王に妥協案を持ちだした。
勇者の名のもとに「オトメルへの侵略をやめるよう」つづった手紙を送る。
だけではなく、オトメルから出立したら真っ先に相手国に赴き、直談判しようとまで申しでて。
が、鼻で笑った女王曰く「そりゃあ勇者さまの手前、卑しいあやつらは揉み手をして肯くでしょう」と。
「ですが、勇者さまが国からでていって、すこすもすれば、しれっと侵略を再開するに決まっている。
そうしないと、あたさまに保証できますか?
魔王打倒を急ぐからこそ、遠く放れてしまっては、あともどりできないでしょう。
そうやって、約束をできたとしても守らせることはできない。
取れない責任を、どう取るおつもりなのですか」
「返す言葉がなかったよ・・・」と惨敗したらしい勇者。
人ギライで、生まれてこの方、ほんとど城から一歩もでていない、鬱なひきこもり女王。
民衆の前に顔を見せなければ、他国の王や使者とも会うことなく、実態が知れないから、精神を病んでいるような印象が独り歩き。
勇者の語りぶりでは、むしろ高飛車のようだが。
なににしろ、女王や臣下たちが一歩も譲るつもりなく、強気でいるのは、たしか。
といって、彼らをだしぬく手立てがなくはない。
城の神官など、いくらか勇者の味方はいるので、彼らの助力で城を抜けだすことは可能。
町の人にしろ匿ってくれたり「勇者さまのためなら」と船をだしてくれる人はいるだろう。
そう「船で海にでる」それだけなら問題はない。
難点は目的地に辿りつけるかどうか。
目的地に向かう途中には、巨大蛸の魔物オクトーが待ちかまえている。
縄張りに近づく船を襲って沈没させるのが常套。
ましてや勇者の乗る船なら、絶対に見逃すはずがない。
勇者一行の戦力で倒せはするが、一撃でやれなければ、船を壊され、結局、みんな海に放りだされてゲームオーバー。
そもそも海にもぐられては、地上からの攻撃が届かないし。
となると、勇者一行が水中で呼吸や、体の自由を利かせて、地上にいるのと変わらないよう戦えること。
船に手だしさせないため、オクト―を海に閉じこめることが必要となる。
残念ながら、今の俺たちは、それをこなせる能力を持たない。
が、力を授けてくれる存在がいるのを知っている。
魔王が支配の手を広める前、オトメルを加護していた女神の妹、ウミルだ。
今は雲隠れして、大海のどこにいるか知れず。
その行方を追えるという、ウミル探査機といえるコンパスを女王が所有。
ウミルがオトメルの王一族との絆を深めるため、授けたものとあり、その血筋、女王が望んで譲渡しないと、機能しないとか。
こっそり持ちだすとか、強奪してもダメと。
つまり、女王を口説きおとすのが不可欠なのだが、勇者の威光も美貌も通じなかったし。
というか「お飾りの女王を説得しても埒はない」との協力者、神官談。
「ウミルさまに拝む時代はおわった!」「勇者でもなんでも、利用できるものは利用しろ!」とやかましい臣下たちが実権を握り、女王はその操り人形なのだとか。
というのも、女王の親はクーデターで殺されたから。
前王、彼女の父が暴君だったのを、臣下の有志で反旗を翻し、前女王、彼女の母とともに断罪し処刑。
一人娘だけは、見逃された。
理由は、ウミルとのつながりを保つため。
頭がお花畑の箱入り娘だから、前王のように脅威にならず、臣下がコントロールしやすそうだったため。
臣下の望みどおり、女王は国の運営管理、政治を丸投げ。
城にこもって、身近な従者以外とは顔を合わさずに、一人趣味にふけっているという。
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