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VSオデル・余談
瞼を上げると、部屋は薄明るくなっていた。
窓の向こうには月が消え、青くなりかけの空が。
「長かったような短かったような」とぼんやりしつつ、すこし視線をずらせば、壁にもたれて腕を組み、こちらを見つめる白魔導師。
とたんに我に返り、股間の惨状に気づき、今更とはいえ、タオルケットで隠す。
気まずくて目をそらすと、隣でよこたわる勇者の安らかな寝顔。
「・・・うまくいったのか」
「一目瞭然、勇者の股間はブジでしょ。
にしても、あんたの喘ぎはワルくないわね。
勇者よりカワイゲがあって、女より癇に障らなくて、もっともっとイジメて泣かせたいって、やたら劣情を掻きたてられる。
私が男なら、我慢できず、悪夢に喘ぐあんたを頂いていたでしょうね」
冗談にしろ笑えず。
「なんてね」とも云ってくれないで、すすめられる。
「まあ、今は成功したと、まだ云えない。
明日、勇者が悪夢を見なければ、一歩前進といったところ。
しばらくは経過を見てみないと・・・」
勇者から俺に視線を移し、一呼吸。
目を細めたなら「あんたは、これから、どうするの?」と。
「・・・分かっているよ。
お前が魔王のスパイだということを、ふれ回るのはもってのほか、うかつに誰かに打ちあけたり、こっそり相談できるもんじゃないってことは。
勇者一行にスパイが紛れているって騒ぎになったら、お前の愛しき謎めいた魔王さまが、どうでるか分からないってんだろ?
たぶん魔王は、やろうと思えば、今の俺らの戦闘能力じゃあ倒せない魔物を、ここらの戦闘地域に派遣することができる。
つまり、すぐに叩きのめせるのに、今のところ、なにか思惑があって、勇者一行を生かしている。
その思惑がなんであれ、探るには時間がかかるし、旅の邪魔をしないなら、こっちだって魔王の機嫌を損ねることを下手にしないっつうの」
そう、そこらへんはゲームに準じてなのか。
勇者一行のその時点での戦闘能力で歯が立たない魔物が、行く手を阻むことはない。
また旅をすすめてレベルアップするにつれ、それに合わせるように魔物は強くなるばかり。
はじめのころ登場した雑魚が、再登場することもない。
勇者が魔王打倒できる力を段階的に得られるよう、ゲームの神様が計画的に魔物を配置したような仕組になっているわけで。
ただ、もし、そういったゲームのシステムが機能していなかったとしたら。
はじめからレベル一〇〇のような魔王が、レベル1でスタートする勇者をひねりつぶすなんて、いつでもできるはず。
したくても、できないのか。
あえて、しないとしたら、目的はなになのか。
そのことが分からないで下手を打てば、魔王の気が変わって全滅させられることも、あるかも。
という、考慮しての判断で、嘘をついたり誤魔化したつもりはないのだが、白魔導師は釈然としていなさそう。
「そうじゃなくて」と額に手を当てて、ため息。
「勇者のことはどうするのって聞いてんの。
もし、勇者が悪夢から解放されたら、後遺症やストレスがなくなって、前ほど、あんたをしゃぶりたくなくなるかもよ。
くるもの拒まず、だらだらと半強姦されるのを受けいれる、あんたの曖昧な立場が変わるわけ。
つまり、勇者とまともに向きあって、愛あるセックスができんのかってことよ」
勇者との関係性を気にするとは意外。
拍子抜けしつつ、応じようとして、唇を噛んだ。
きっかけが呪いだとしても、前世では未経験の初恋ができて、しかも両想いというに。
かつては、セックスを趣味と豪語し、無縁だった恋愛なるものに、今世、うつつを抜かせばいいところ。
それでも俺・・・。
「お前には関係ないし、どうでもいいことだろ」
「・・・そうね。聞いたわたしが馬鹿だった」
心にもなく白魔導師の問いかけを一蹴したのは、ある思いつきをして「そんな馬鹿な」と呆れつつ、慄いてのこと。
どうして魔王は洗脳して悪夢を見せるのか。
もしかしたら、勇者にイヤガラセをしたり困らせるのが目的ではない?
こうして、俺が身代わりになるのを見越して、しかけたのでは?
まさか魔王のターゲットは勇者でなく、俺え?
「そんな馬鹿なそんな馬鹿な」と胸のうちで笑いとばしたが、どうしても、この頓珍漢な発想をかき消すことはできなかった。
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